10. ある男の日記
~○月✕日~
長らく記入していなかったが、久しぶりに筆をとる事にする。
ここ数日、驚くべき事が起こった。
サタン様が記憶喪失になられたのだ。
それに何より、サタン様が俺を”ベルゼ”とお呼びになった!
ありがとうと感謝のお言葉を頂いた時も喜びに震えたが、これはこの上ない喜びだ。
サタン様が血眼で御部屋を掃除されていた時は驚いたが、考えれば当然の事。
今までが汚すぎたのだ。
俺は急いで廊下とサタン様の目が届く範囲を掃除して回った。
本来ならば使用人の仕事だが、アイツらはサタン様を怖がって近寄らない。
役立たずが仕事をするのを待つより、自分でした方が早い。
そういう事で、俺はここ数日で俺の人生史上頑張って掃除した。
正直寝不足だが、サタン様の喜ぶお顔を見ているとそんな事忘れてしまう。
部下のフルーレティに言って片付けさせていたダイニングルームがまだ完全でなく、サタン様が悲しそうな顔をされていた。
アイツの罪は重い。
とにかく、あの方のために働くのは苦ではないが、俺一人では全てこなすのは無理だ。
ベルの野郎と協力するのも癪だが、他の奴らにも言ってこの城を綺麗にしなければ。
~○月△日~
御部屋の改造がお気に召されたようで、今日のサタン様はうきうきしていらっしゃった。
なんと俺のための紅茶も用意して下さったのだ。もう一生あの方に付いて行く。
フルーレティのヤツにも褒美をとらせないとな。
会議に取り組まれるのも本来なら喜ばしい事だが、記憶を失くされた状況であまり無理なされないで欲しい。心配だ。
少しでも懸念を減らすため、会議に来る奴らと少し話をしてきた。
アザゼルとグラシャ、アマイモンは来ないと言っていたから安心だ。
サタナキアとルキフゲは来るようだが、アイツらは特に問題はないだろう。
問題は、アスタロト。
アイツが来ると話がややこしくなる。せっかく綺麗にした壁がヤニで汚れるし。
とにかく来てほしくない。
サタン様にも悪影響だ。
どうにかして来ない方向で話を進められないだろうか……
女が革張りの日記帳をぱたりと閉じる。
年期を感じる紙の香りが漂った。
ウェーブのかかった金色の髪をかきあげ、楽しそうに口許を歪めた。
会議まであと四日。




