第7回 双子の姉弟①
≪CASE3≫
スタートゲートを出てみると、目の前に広がるのは一直線のコースだった。
何処かの山を切り開いて急遽作ったのかな?
そのコースはとても綺麗に整備されていた。
そしてコースの遥か前方には建物らしきものもポツポツと見えた。
みんな当然の様にそのコースにそって進んでいる。
でも私はこの施設を横に進むとどこまで行けるのだろうと気になっていた。
「よし、こっちに行くわよ」
集団の後についてコース通り進もうとしている悟の手を引っ張って私はコースを外れた。
「えぇ、どうして?寄り道なんてしてていいの?」
「いいのよ、こっちで。だってこのレースは追跡者から逃れる必要があるんでしょ。だったら自分たちが移動できる範囲は把握するに越した事ないでしょ」
「姉ちゃんがそう言うなら従うけど、でもいざという時は助けてよね。僕はその靴ないんだから」
悟が私の運動靴を指さす。
「わかったわよ。でもあんたは頭いいんだから、このレースの攻略方法考えなさいよ」
私と悟は双子の姉弟。
姉の私は自分で言うのもアレだが身体能力が高く、運動神経もいい。陸上部所属で高校2年生ながら200mの短距離走で県大会ベスト8まで残ったぐらいだ。
また幼い頃より空手も習っていて、正直そこらの男子よりは強いと思っている。でも、残念ながら頭はそんなに良くない。
一方弟の悟は運動はからっきしだけど、頭がいい。学年順位も常に一桁だったしね。
つまり私と悟はその能力が正反対なのだ。
でも2人でいれば大抵の事は乗り切れる。
足りない部分を補っていけばいいんだ。
このレースも私たち2人が力を合わせれば必ずゴールできるんだ。
早足で歩いて10分ほど進むと透明の壁にぶちあたった。
壁の向こう側にも景色は続いているけど、進めるのはどうやらここまでのようだ。
透明の壁は上に果てなく続いている。
一体どういう作りになっているんだろう?
賞金300億円にこんな施設まで用意するなんて…いったいどんな人が主催者なんだろう?
疑問に思う事はたくさんあった。
中央のコースからこの壁までの間には無人の建物や大きな樹などがあって、コースから外れると身を隠す事もできるなぁと感じた。
私がコンコンコンコンと壁を叩いていると、悟が息を切らしながらようやく追いついてきた。
「ハァ、ハァ、姉ちゃん、歩くの速いよ」
悟は不満そうに頬を膨らませている。
「あんたが遅いのよ。もっと体力つけなさい」
言いながら私たち姉弟は本当に似ていないなぁ~と思ってしまう。
「ハァ、どうやらここが行き止まりみたいだね。距離にして約500mと」
「おっ。距離も測ってくれてたんだ。流石~」
「あぁ、まぁ概算だよ。僕は姉ちゃんと違って意味もなく突っ走るなんて嫌だからふぇ~」
全てを言い終わる前にほっぺを引っ張ってやった。
「細かい事は悟の仕事でしょ。わたしはいいのよ」
「全く、怪力なんだから…」
「またほっぺを引っ張られたいの?」
悪かったよぉ~と悟はゴメンのポーズをとる。そして何かに気づいたみたいで指さした。
「あっ、姉ちゃんあそこ」
その方向に目をやると大きな四角の木箱が置いてあった。
近づいて確認するとその箱には鍵穴があり、それが何だかすぐにわかった。
「これが例の宝箱ね。じゃあ私が開けるわね」
「えぇ、もう開けちゃうの?」
「当然でしょ。目の前に宝箱があるのよ。開けないなんてあり得ない」
「また良く考えもしないで…」
悟は半ば諦めた感じで言っていたが、私としては一刻も早く開けたくてウズウズしていたのだ。
ため息をついている悟を無視し、私は早速解錠するのだった。
≪パカッ≫
宝箱が開き、その中には複数のアイテムが入っていた。
リュックサックと非常食・ペットボトル、薬、、双眼鏡、懐中電灯、ナイフ、ライター、拡声器…。
「なんだか防災グッズみたい」
これでこのレースを勝ち抜く事なんてできるのだろうか?
私はその中身にちょっとガッカリした。
「まぁ、ドンマイ。でもきっと役に立つものなんだよ」
「他人事だと思って…。いい、次はあんたの宝箱を探すわよ」
「えぇ!僕も!?ここで?」
「当たり前でしょ。さぁ、行くわよ」
とりあえずアイテムをリュックに入れ、私たちは次の宝箱を探し始めるのだった。
そして周囲を調べ始めて数分後。
無人の建物の中で、小さな宝箱を発見した。
「やったね。宝箱ゲットー」
「姉ちゃんはしゃぎ過ぎだよ」
「いいじゃん。なんか嬉しいんだもん。じゃあ悟、開けなさい」
「はいはい」
面倒くさそうに開錠する悟だったけど、その中身を見るなり表情が一変した。
「マジか…」
そう言って固まる悟。
「ちょっと、何が入っていたのよ」
悟が全然説明しないものだから、私は直接宝箱の中を覗き込んだ。
そして私も言葉を失い固まるのだった。
宝箱の中にあったものはウエストポーチと小さなケースで、そのケースいっぱいに弾丸が入っていた。