第4回 3人の女子高生③
とにかく今はあのゲートの向こうへ行かないと。
私たちは必死にスタートゲートを目指して走っていた。
そしてあと数メートルのところまで来た時、私はちょっと嬉しくなって瑠美子に声をかけた。
「もう少しだよ、瑠美子。頑張っ・・・」
だけど、私は言いかけた言葉を途中で呑み込んでしまった。
だって振り返った私の目が捉えたのは瑠美子ではなく、彼女の後方にあるステージ上だったから。
そして目を疑った。
何故なら、ステージ上ではついさっき死んだはずの沙織がムクッと起き上がっていたのだ。
驚きのあまり思わず足が止まってしまう。
そんな私に、
「ちょっ、危ない」
と言って瑠美子が慌てて止まろうとするも間に合わず、彼女は私の上に覆いかぶさる様にぶつかってきたのだった。
「イタタタタ…。もう急に止まんないでよ。ぶつかっちゃったじゃない」
瑠美子はすぐに立ち上がったのだけど、私は立ち上がる事ができなかった。
「もう、何とか言いなさいよ」
口を尖らせながらそう言う瑠美子に、私は指をさすのがやっとだった。
「あっ、あ、あそこ…」
「何!?まさかライオンが追って来てるの!?」
そしてようやく瑠美子も私の指さすほうをに視線を向け、驚きの声をあげたのだった。
「あっ、沙織!起き上がってる。沙織生きてたんだよ!!」
ただ、その声は私とは対照的な喜びの声で、瑠美子はすぐさまステージへと駆け戻って行った。
私はしばし呆然としていたが、目の前で起きあがった沙織を見てると死んでいなかったんだと嬉しくなってきて、そしてそう思うとすんなりと立ち上がる事ができたのだった。
それから私もすぐに瑠美子の後を追って、ステージへと向かった。
すると沙織も私たちの事を認識したのか、凄いスピードで近寄ってきた。
あぁ、確か沙織は例の運動靴の効果が続いてるんだっけ。
そんな事思っていると、目の前で瑠美子と沙織が抱擁していた。
さっきの私たちみたい。
ただ、今回は瑠美子に沙織が覆いかぶさる様な感じで・・・と思った瞬間だった。
≪プシューーーーー≫
急に音をたてて鮮血が噴き出したのだった。
そして立ち上がった沙織のその顔は真っ赤に染まっているではないか。
「へぇ?なんで噛んだの…」
そう言って地面に倒れたままピクピクと体を痙攣させている瑠美子。
その光景を目の当たりにして私は一歩も近づく事ができなかった。
足元が濡れている。恐怖で漏らしてしまったみたいだ。
でもそんな事は今はどうてもいい。
コレは何なの?
沙織が顔に浴びてるのって血だよね。
それに瑠美子が言ってた『噛まれた』ってどういう事?
もう一体何がどうなっているのよーーー。
目の前の非現実に頭が混乱していた。
そしてそんな私を余所に、ピクピクと動いていた瑠美子の体もやがてその動きを完全に停止したのだった。
沙織は崩れた瑠美子には興味なくなったのか、血だらけの頭をキョロキョロさせていた。
それはまるで次の獲物を求めるかのような、恐怖に満ちた仕草だった。
一度死んで、再び起き上がって、噛みついてくる。
それって、まるで…
そう思った瞬間だった。
口を開いて白目状態の沙織が目の前に現れたのだ。
そして、躊躇いもなく鋭い牙を私に突き立ててきた。
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≪ガブッ、ガブッ!!≫
≪クチャ、クチャ・・・≫
歯や爪を使い私の身体を喰らっている。
あぁ、私死ぬんだ…。
意識を失いながら初めて理解した。
ライオンが『追跡者が女性とはツイていない』と言った意味を。
女性には運動靴の効果があるから。
反則だよね、アレは。
そして、きっと肝心の追跡者って言うのはゾンビなんだって―――。
どうしてこうなったのかなぁ?
私たちは、ただ買い物に出かけただけなのに…。
◇
どれくらい時間が経ったのだろう。
私は1人運動場にいた。
お腹すいたなぁ。
あれ?
ゲートの向こうから、何だかやけに美味しそうなにおいがする。
そうだ、私も早く行かなきゃ。
沙織や瑠美子に全部食べられちゃう前に…。
◇
一体の女子高生ゾンビが靴のスイッチを押して颯爽と駆けて行く。
その様子をステージ上から眺めている2つの影。
『さぁ、いよいよ始まったねぇ~。誰が生き残るのかなぁ~』
ガゥガゥ、ガゥガゥ。
運動場には不気味な嗤い声だけが鳴り響いていた。
≪CASE1 千佳 Dead≫
『異世界で出逢う大切な人』最新第五十九話を近日更新予定です。そちらも是非よろしくお願いします☆彡