第3回 3人の女子高生②
スタートから20分ぐらい経っただろうか。
運動場にはまだ50人ばかりの人がいた。
そしてそこには私達3人も含まれている。
正直、どうすべきか迷っていてその場から動けないでいたのだ。
『あれあれ~。ここに残っているみんなは賞金欲しくないの~?』
またライオンが鼻につく言い方をしてみんなを囃し立てている。
『そろそろ、追跡者が行動開始しちゃいますよぉ~~』
でもね、ライオンちゃん。‘スタートしました。さぁどうぞ'ってそんなに簡単な話じゃないよ。
ルールを見る限り死亡って事も書いてあったしね。
いくら賞金が出ようとも命に関わるレースなんてまっぴらごめんだよ。
私はこのレースに不参加となる方法はないかと必死に考えていた。
すると隣から瑠美子が怒った声が聞こえてきた。
「だいたい、あのライオン何様なの。どういう権利があってこんな事してるのかしら」
「そうそう、なんかあのライオン見てるとムカつくわぁ」
沙織がそれに同調している。
「っーか、ちょっと文句言ってやろうよ」
「いいね。ガツンと言ってやらないと腹の虫がおさまらないしね。ほら、千佳も行くよ」
「えっ?えっ?ちょっとやめようよ」
私は何故かテンション高めの2人に腕を強引に引っ張られて、ライオンがいるステージへ向かう事となったのだった。
ライオンの周りには10人程が群がっていて、色々と文句を投げつけていた。
私たちはその人込みを掻き分けてライオンの真ん前まで行った。
すると沙織が何を思ったのかいきなり靴のボタンをひとつ押したのだ。
「あは。本当に軽くなったわ。何だか力が漲ってくるみたい」
そう言ってライオンの頭上に思いっきり片足を上げてかかと落としをくらわせたのだ。
≪ズドーーン≫
もの凄い音とともにステージの板にめりこむライオン。
「てめぇ、さっきからムカつくんだよ」
沙織の行動に瑠美子はキャッキャと手を叩いて喜んでいる。
突然の出来事に私や周囲の人達は唖然としていた。
ただわかった事が一つあった。
この特別仕様の運動靴の効果は本物だって事。
だって普通の女子高生の脚力じゃ、相手が板にめり込むぐらい強烈な蹴りを放てるわけがないもの。
でも、そう考えると何だか急に怖くなった。
靴が本物なら、ルールに書かれた他の事も本物じゃないのかと。
そんな事を考えていると、
『あいたたた…』
と声が聞こえてきた。
周囲の視線が一斉にそこに集まる。
『いい一発でしたね~。元気がいいのは結構な事ですよぉ~』
ライオンは頭をクラクラ振りながら、板から這い上がって沙織に向かいそう言った。
『でも攻撃する相手を間違えちゃいましたね~』
「はぁ?何言ってんだコイツ。もう一発くらいたいわけ」
あれだけのかかと落としをくらっておいてほぼダメージがないライオンに驚きつつも、沙織がすぐに食って掛かった。
だけどライオンはそれを気にするわけでもなく話を続けた。
『というわけで、ちょっと早いけど始めちゃいま~す』
そう言って、素早く拳銃を構えると躊躇う事もなく引き金を引くのだった。
『追跡スタート~~~!』
≪ズドン≫
鈍い音が響くと同時に力なく前のめりに倒れる沙織。
私は慌てて駆け寄るも、既に沙織の目は見開かれていて…。
「じょっ、冗談よね。ねっ、ねぇ、沙織…」
恐る恐る抱きかかえると、玉が眉間にめり込んでいたのだった。
≪キャァァァァァァ≫
私の悲鳴が合図となり、周囲からも次々と悲鳴が上がる。
そして騒然とする中、運動場にいた全員が我先へとスタートゲートへ走って行くのだった。
『おや~。あなたたちは逃げなくていいのですかぁ?もう追跡始まってますよぉ~』
ライオンが何食わぬ顔で言う。
まるで何事もなかったかのように。
その物言いが凄く憎たらしくて、私は涙ながらにジッとライオンを睨むのだった。
「追跡とか関係ないわよ。あんた沙織を殺してるじゃない」
涙を流し反対側から沙織を抱きかかえる瑠美子がライオンに向かって叫ぶ。
そう、確かにもう沙織は絶命していたのだ。
『そうですね~。死んじゃいましたねぇ~。では、沙織さんは脱落者一号ですね~』
ガゥガゥと笑い転げるライオン。
『それにしてもやっと面白くなってきましたねぇ~。追跡者が女性とは、皆さんツイてないですねぇ~』
今すぐ運動靴のボタンを押して蹴り飛ばしてやりたい気持ちいっぱいだったけど、何やら嫌な予感がして私は瑠美子の手を引いた。
「瑠美子、私たちも行こう…」
「なっ。何言ってるの千佳。沙織をこんなところに置いていくって言うの?」
「わかってるよ。でも、もう沙織は…。それに何だか良くない事が起こる気がするの…」
私は瑠美子の手をを強引に引っ張り涙ながらに訴えた。
はじめこそ嫌々と拒んでいた瑠美子だったけど、周囲から人がいなくなっているのも相まって、しぶしぶ立ち上がったのだった。
そして私達はスタートゲートへ向かって思いっきり走った。
悪い夢なら早く冷めてよ。
そう心の中で叫びながら―――。