第1話 家にタイムマシンがやってきた!
普通の男の普通じゃない日
玄関のチャイムが鳴った。
「宅配です」
その声を聞いて、僕は待ってましたと言わんばかりに立ち上がった。小走りで玄関へ向かい、勢いよくドアを開けた。そこには、緑の作業服に緑の帽子をかぶったガタイのいい男4人(この人たち絶対体育会系だろうな...)、その後ろには、洗濯機ほどの大きな段ボール箱があった。
「守内 守さんのお宅でよろしいですk...」
「はいっっ!!」
僕があまりに食い気味に返事したせいか作業服の男は怪訝そうな顔をした。
「あ...守内で間違いないです」
慌てて言い直した。
「守内さん宛に荷物届いてます。大きいんで運び入れますね」
そう言うと作業服の男は他の3人の男達に声をかけ、後ろにある大きな段ボール箱に手を掛けた。せーのという掛け声で持ち上げ、蟹のような歩き方をして僕の部屋へ上がって行った。
(あの様子だとやはり相当重いらしい)
箱の中身はだいたい分かっているので僕は納得した。 とりあえず、箱はリビング(リビングと言ってもワンルームだからリビングもくそもない)に置いてもらった。
僕の住んでいるマンションはワンルームだが割と広く自分ではとても住みやすいと思っている。
仕事を終えた男たちは4人揃って「失礼します!」と元気よく礼を言って家を出て行った。(やっぱり体育会系なんだなぁ)
「そんなことより」
僕はリビングにデンッと置いてある大きな段ボール箱に体を向き直した。箱には英語で「TIME JUNPER」というロゴマークが写っている。
TIME JUNPERとはいったい何か。聞いて驚く無かれ。なんとこれはタイムマシンなのである!大事なことなので、もう一度言う。タイムマシンなのである!!
時は西暦2XXX年。
人類の進化はとどまることを知らず、ついにタイムマシンを作ってしまったのである!
その後、日本のある企業によって、小型のタイムマシンが大量生産が可能になり、「タイムジャンパー」という名で世間に普及し始めた。
しかし、当時はまだタイムマシンについての技術が高くなく、見た目は悪いは(四角い箱に小さな煙突が付いたようなもの)、変な音がするは、燃費は悪いは(なんとガソリンで動く)、名前はクソダサいはで全く売れなかった。
そこで企業は日本中から技術者を雇い、改良に改良を重ね、10年後、「TIME JUNPER」として(英語にしただけやないかい!)売り出した。
前作とは違い、見た目は水の雫のように、綺麗な曲線を描き、上の方はとがっている。本体のカラーも10色から選べるようになった。また稼動中の音の大きさも格段に改善された。燃料はガソリンのままだが、燃費自体は良くなっている。
TIME JUNPERは200万円というタイムマシンにしてはお手頃(なのか?)な価格で販売された。すると瞬く間に大ヒットし前作のタイムジャンパーの100倍以上の売り上げを叩き出した。今や日本での普及率は原付バイクを越えようとしている。
しかし、ここで疑問を持つ読者の方がいるかもしれない。
「なんでお前みたいなワンルームに住むのがやっとなヤツが200万円のタイムマシン買えたんだよ!」
「親におねだりしたんじゃねーだろうな?自立しやがれ!」
「どーせチンケな犯罪でも犯したんだろ?更生しやがれ!」
「へっ、どーせ競馬で大当たりでもしたんだろ?俺に半分は寄付しやがれ!」
そう思うのは無理もない(最後はともかく)。
でも、違うんだ。皆さん!僕は親におねだりしてないし、犯罪を犯してもいないし、競馬もやってないし、あなたに半分寄付するつもりもない!(てか、あなた誰ですか?)
ではなぜタイムマシンを手に入れることができたのか。実は僕はテレビの懸賞に応募しただけでなのである。ここでまた読者の方は疑問を持つかもしれない。
「テレビの懸賞なんかでタイムマシンが当たるわけねーだろ!」
「そうだそうだ!私たちをバカにしているのか!」
「半分の半分でいいから俺に寄付しやがれ!」
でも、読者の皆さんには分かってほしい。(だから寄付しないって!この分からず屋!)
今の時代こんなことだってあるんです!世界は不思議なことばかりです!あぁ生きているって素晴らしい!......すみません話がそれました。
とにかく、僕の目の前には自力で手に入れた(運も実力のうちって言うしね)タイムマシンがある。
まあ、まずは開けてみよう。僕はハサミを持って来て箱を開いた。
上から中を覗くと梱包材で隠れているがタイムマシンの特徴的なとがったフォルムが見えた。色はピンクである。懸賞のためカラーを選ぶことはできなかったが、ただで貰えるのだから文句は言えない。
本体は重くてとても箱から取り出せないので、段ボールの方をはがした。僕はワクワクしながら梱包材をはがした。
すると待ちに待ったタイムマシンがついに姿を見せた。
先ほども言ったように見た目は水の雫、大きさは大人が1人体育座りして入れるくらいである。表面は特殊なプラスチックでできているらしく、窓からの日の光に照らされ、ピカピカと輝いている。まさに水の雫のようだ。
僕のテンションは上がった。何しろタイムマシンである。いくら世間に普及していると言っても、1人暮らしの若者が手に入れられるものではない。僕は友達に自慢して回ろうと思ったが、タイムマシンに乗せてくれと言われたら面倒なので、自慢するのは我慢することにした。
箱には本体の他に説明書が入ってあった。それは辞書かと思うほど分厚く、とても読む気にはなれなかった。
僕は説明書を諦め、目の前にある不思議な物体を眺めた。ピカピカと輝くそれは僕をとても不思議な気持ちにさせた。
楽しんで読んでください。