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 夏が終わる。暑い日差しも弱まり、風が涼しくなってくる。


「親父さん、明日戻るわ」


「そうかい。じゃあいいもん食わせないとな!」


「景気よく頼むぜ」


「あんた!また調子いいこと言って、もう」


「アルテちゃん~。飯頼むわ~」


「はい。お待ちください」


 ヴァスは1週間ほど村に帰省していた。明日朝にはカリナの街へ戻ると皆に話している。最近の話題は、国の北側の小さな村や町が暴竜の襲われ火の海に消えた事件だ。大人しくしていたと思われた暴竜が再び暴れだし、ルテアの住んでいる小さな町にも、カリナから人が流れているのだ。


「まぁ、カリナに来るようなことがあれば言ってくれや。できる限り融通する」


「……別人ですが」


「おうおう。じゃあな!」


 ルテアに絡んだあの日から、毎日夕時に現れていたヴァスは、そう言ってルテアの肩を叩き食堂を出る。その背中にルテアは会釈する。山の向こうに日は落ちていき、夕焼雲が遠くに見える日であった。


「アルテちゃん、手紙が来てるわよ」


「はい?」


 宿屋件食堂の生活も2か月目に突入し、秋深くなる頃、シトルからの手紙――小さな封筒が届いてきた。女将から手紙を受け取り、仕事が終わった後に封を開く。封筒の中には手紙が1枚、鍵が1個入っていた。


「これは……」


 ルテアは内容に目を通し嘆息する。手紙の内容は簡潔かつ、ルテアにとって重要な情報であった。ケテル王国に現れた暴竜はその後各地を襲撃していること、暴竜の追跡を行い住処を見つけたこと、そして住処からのおびき出しと決戦場所であるカリナ東北の丘陵地帯での戦闘予定日であった。


 問題なのは最後にロベリアとイレーネ、さらにシトルが暴竜討伐に参加する話だ。ルテアは自分が討伐に参加しなければロベリアも参加しないと踏んでいたが、主人公らに乞われ渋々参加するようなのだ。イレーネは後方支援を担当し、シトルは参謀役らしい。


 戦闘予定日は少し先だ。しかし、装備の準備や現地までの移動を含めるとギリギリだろう。この季節は天候不順が多く、もしかすると間に合わないかもしれない。夏の終わりに旅立ったヴァスの顔がルテアの脳裏にちらつく。手紙には来いとも逃げろとも書いていないが――。


「はぁ……」


 ルテアは手紙と鍵を封筒に戻し、持ってきた袋へと突っ込む。短い溜息と共に立ち上がり、部屋の扉を開け、店主に話をするため廊下へ出る。静かになった宿屋の廊下にルテアの足音が響くのであった。


「やっぱり行くのかい」


「はい」


「戻ってきてね」


「少しだけ、シトルさんの様子を見に行くだけです。お世話になりました」


 ルテアの前に心配顔の宿屋の夫妻2人が立っている。ルテアは来た時と同じ旅人の格好、茶色のズボンと服に新しく買った灰色のコートを着て、袋を背負っている。怪我をした両足の調子も、随分良くなってきていた。


 ルテアはあの手紙を読んだ後、すぐに宿屋の夫妻に”シトルの様子を見に行く”と伝えたが、夫妻は首を中々縦に振らず、既に3日経っていた。ルテアが戻る前日には豪華な食事を作ろうとしていたようだが、ルテアは次に来た時に作って欲しいと断った。


 そして、懐かしの学園へと来た道を戻ることになる。道中は来た時と同じように特に問題はなかったが、北へ行く馬車の中はガラガラであり、北の方からくる馬車とのすれ違いが多く、事態の深刻さが目に見えるのであった。


*****


「おー。戻ってきたな」


「お久しぶりです」


「何か学園長が怒ってるらしいぜ」


「……そうですか」


 夕方、学園に到着したルテアは守衛に挨拶をして中に入る。普段ならばこの時間は多くの生徒で賑わうが、今は誰も見当たらずとても静かである。ルテアは一直線に旧校舎へと向かう。


「何も残っていないとは」


 ルテアが旧校舎の休憩室まで行くと、酷い光景が目に飛び込んでくる。休憩室の窓は割られ、中は焼け焦げた跡が残っている。ルテアの服が入っていた棚も、本を入れていた箱も、食べ物を入れていた床下もだ。部屋の中はガラガラで何も残っていない。


「次は用務員室か」


 ルテアは次に用務員室へと向かった。背負っていた袋を下して、封筒に入っていた鍵を取り出す。部屋の中はいつもより整理整頓されていた。ルテアは部屋の中の棚や箱を開けて中を確認しようとして、閉めていた扉がノックされていることに気付いた。無言で片手にアイスナイフを出現させ、扉の向こうに話しかける。


「どなたでしょうか」


「私ですよ」


「――学園長」


「お久しぶりですね、ルテアさん。これを受け取りなさい」


 そこには疲労が滲む顔の学園長が立っていた。ルテアは学園長からシトルの手紙と、旧校舎に置いてきた通行許可証を受け取る。学園長に案内され学園の武器庫奥の木箱を開けると、特注していた長い矢と短い矢が革袋と共に置いてあった。ルテアは長い矢1本、短い矢2本を革袋に入れて背負う。


「タロン家の件は申し訳ありません」


「いいのですよ。既に話はついています」


「はい。それでは失礼します」


 学園長がそれ以降ルテアに声を掛けることは無かった。


「お?もう出発するのか」


「ええ……」


「そうか。気を付けなー」


 守衛に会釈をして雲が出てきた空の下、ルテアは学園を背に歩き出す。乗合馬車に近い宿に泊まり、2枚目の手紙に目を通した。内容はシトルからライア経由で現地への通行許可が取れているという内容であった。もしも兵士に止められた場合は、通行許可証を提示すれば問題ないと記載がある。


「手回しのいいことで……」


 シトルの準備と配慮にルテアは感謝して寝床につく。カリナ行きの馬車は少なくなり、荷馬車の空き区画に乗車することになっている。馬車は早朝に出発するため、寝過ごしは厳禁であった。


「ふむ。確かに許可証だ」


「それでは街中に――」


「待つんだ。討伐参加者は別室で待機することになっている」


「おい!手の空いている者を呼べ」


 厚い雲で薄暗くなった昼過ぎ、ルテアはカリナ北門の門番に止められた。通行許可証の提示と討伐参加を希望すると、門番から別室での待機の指示が出る。


 ルテアは兵士は別室へと案内された。1階にある石造りの窓のない狭い部屋には、照明と机とベッドしかなく、部屋の隅に木の蓋がある。


「こちらです。しばらくお待ちを」


「これでは――」


 ルテアが中に入ったことを確認して、兵士は部屋の外に出る。そして、木製の扉の向こうから鍵の閉まる音がする。


「は?」


 ルテアは扉に戻り外へ開こうとするが開かない。扉の内側には鍵穴は無かった。これにはルテアも想定外であった。

部屋隅の木蓋を開けると悪臭がするため、すぐに閉じる。その後、ルテアが寝て起きるも、誰も部屋に入ってくることは無かった。


「……」


 ルテアは扉を突破して脱出することを決意する。無駄な時間は既に無い。部屋に入るまでの道程から脱出経路を想定し、扉へと視線を向けた。


*****


 ルテアの知らぬところではあったが、今回の暴竜討伐は第2王子のライア派が主導となって計画したものだ。この計画は当初第1王子派が握っていたが、英雄と呼ばれるようになったライアが現れたことにより、流れが変わっている。


 また、カリナでの暴竜との戦闘でルテアとシトルが戦った報告についても、両派閥は把握していた。そのため、ライアが邪魔であり、ルテアの討伐参加で死亡や怪我をする確率が下がることを懸念する第1王子派。ライアを英雄として喧伝しており、ルテアが討伐の主役となることを恐れている第2王子派。

 両派閥にとってルテアが参戦することは邪魔であった。


「隊長!」


「あぁ、ヴァスか」


「竜殺し奪還のため人員を集めてきました」


「東門はどうだ?」


「言われた通り金を渡してきました。ですが……」


「諦めろ。その少女、ルテアが逃げ出さないことには、こちらは下手に動けんのだ。勿論、動きやすいように下準備はするがな」


 北門の隊長は出世と金に目がないとの噂であった。そして、ルテアが捕えられた情報は、直ぐにカリナの兵士の間に流れている。ヴァスの所属は防衛と偵察が主任務であり、以前の戦いと暴竜の追跡で多大な犠牲を払っていた。これ以上の損害を出さないためにもルテアが必要なのだが、同じ組織内での衝突はできる限り避ける必要があった。


「了解しました。それで――隊長。お言葉ですが、少女の名前はアルテでは?」


「ルテアで間違いない。では、引き続き監視しろ」


「はっ!」


 夕暮れのカリナの街に雨が降る。空は黒く、当面雲が晴れる様子もない。


*****


 ルテアは扉の前で暫し佇む。何故閉じ込められたのか、いつまで閉じ込められるのかという疑問は湧くが、今は意味の無いことだと頭を切り替えた。重要なのは脱出し、暴竜討伐を支援することだ。


「……」


 ルテアが無言でアイスジャベリンを扉の取っ手に撃ちこもうとした時、建物の裏側から大きな爆発音と衝撃がルテアに届いた。ルテアは好機と判断し、扉を粉砕する。


「逃げたぞ!」


「追え!逃がすな!」


 ルテアに兵士らの声が聞える。ルテアは霧を発生させ視界を遮ると同時に走り出す。


「そっちに行ったぞ!」


 小柄な体格を生かして妨害する兵士らの横を抜け、追ってくる兵士はアイスアローで牽制する。ルテアは窓がある通路までくるとアイスジャベリンで破壊し、窓の外へと身を投げ出す。そして、夜のカリナの街へと逃げ出した。街には小雨が降っていた。


 ルテアは雨を避けるため、崩れかけそうな建物の2階に泊まっていた。気温は下がり体も濡れているため、灰色のコートのフードをかぶって小休憩をしている。


「――!?」


「アルテなら1回、ルテアなら2回、それ以外なら3回頷け」


 少し眠気が襲ってきたルテアの視界が回り、地面にうつ伏せ倒され、両腕を押さえつけられた。首元にはチクリと痛む尖ったものが当てられ。感情の無い、低い男の声がルテアの耳に入る。ルテアは――頷かず、手首の位置を調整してアイスナイフを出現させ飛び起きる。


「いってえええぇ!」


「……」


「俺さ、ヴァスだ!やめてくれ!」


 ルテアが起き上がりつつ相手にアイスアローを向けると、軽装のヴァスが立っていた。そんなヴァスをルテアは目を細めて睨みつける。


「どうも……」


「言いたいことはあると思うが……こっちだ。ついて来い」


 ヴァスは腰に巻いていた袋から、粉を取り出し手の傷口へとふりかけ包帯を巻くと、後を追いかける様にルテアへ伝える。ルテアは監視されている可能性が高く、逃げ出しても再度見つかるならば、時間の無駄と考えた。

 暗い裏通りを歩くヴァスの後ろをルテアが渋々ついていくと、東門の明かりが見えた。そして東門の裏の詰所へと入る。


「ここは安全だ。少し寝て、日が出る前に出発するぞ」


 ルテアが周りを見渡すと、5名ほどの屈強な男達が居た。ヴァスは同僚だとルテアに説明する。彼らは鉄の鎧と兜をつけ槍と弓を装備して、目がぎらぎらとしておりやる気は十分だ。ルテアは詰所奥で少し仮眠して目を覚ます。


「お前ら!いくぞ!」


「おおぉぉおお!!!」


「いくぞ、アル――」


 ルテアはヴァスを睨みつけた。ヴァスは口を閉じ、目を泳がせ、口を開きなおす。


「――ルテア」


「はい」


 ルテアが頷くと、彼らは武器と荷物を背負い、少し明るくなり始めた森へと歩き出す。出発前、本隊は現地に到着してすでに戦闘態勢を敷いていると、詰所へ駆け込んできた兵士がヴァスへと話していた。


 以前ルテアは現地まで地図に載っている道を馬車と徒歩で向かっていた。ヴァスは本隊とは別のやや険しいが短い道を選ぶも、到着まで半日過ぎ掛かる予定だとルテアに説明する。


 小雨は雪へと変わり、ルテア達の頭上へと静かに降り注ぐ。


*****


 ルテアは眠い目をこすって山道を歩く。足は棒のようになっていた。足元は昨日の雨でぬかるんでおり、ルテアは何度も転び泥まみれになっている。道程は思いのほか厳しく、日は傾き夕暮れも近い。


 そんな恰好のルテアが現地に近づくにつれ、爆発音、怒鳴り声、悲鳴、剣の音が大きくなっていく。森を抜け、白くなった丘陵にたどり着くと、辺り一面から煙と共に鼻につく肉の焼けた臭いが漂い、人だったモノ――黒焦げの塊が点在していた。また、丘陵の至る所に多くの人々が倒れ、血を流している。


「ひでぇな……」


 誰かがそう呟いた。

 ルテアは背負っていた革袋を地面に下ろして、震える両手で長い矢を掴み上げ、大きく深呼吸をして覚悟を決める。ルテアの両手の震えは少し納まっていた。


「終わったか……」


「……」


 ヴァスの声に顔を上げると、暴竜には無数の矢が、魔法が届いていた。暴竜の前では主人公が囮となっている。かなり離れた場所からシャントリエの強大な火魔法とセルリアの風魔法を合わせた合成魔法、暴竜を超えるほどの巨大な火球が暴竜の頭上から落ち、辺り一面を焼け野原にした。


 既に空は夕焼け、雪は止み、赤と紫の光が雲間から丘陵へと差し込んで、地面の水溜りが光を反射する。


 攻撃を受けた暴竜の表面は真っ赤に光り、煙が上がっている。傷まみれの暴竜は主人公らを睨みつけた後、絶叫を上げ倒れると、皆から歓声が上がったのだった。暴竜へはその後も攻撃が続いたが暴竜が起きる気配はなく、皆の間に弛緩した空気が流れていく。ルテア背後からも兵士たちの喜び合っている声が聞こえる。


 遠くではフィリカやイレーネが倒れた皆に治療を行っている様子が見えた。ロベリアとランデは主人公たちの後方に立ち、ライアとシトルはさらに後方に居るようだ。


 ルテアは灰色のフードを脱ぎ、普通のアイスアロー2本と短い矢を含めたものを2本出した。肘にかかる程の長い薄い黄色の髪が風に揺れる。


「お、おい!」


「……終わりですよ」


 そんな光景をルテアは森から見ていたが、一歩、また一歩と主人公らの反対側よりゆっくりと暴竜へ近づいていく。ヴァスはルテアの背中に声をかけるが、ルテアは振り返ることなく前へ進む。


「おい、あいつは――」


「何で今更現れたんだ」


 主人公達や冒険者、一部の兵士はルテアの姿を見て訝しむ。暴竜はすでに倒れているのに、武器らしきものを手に持ち、不穏な空気でこちらへ近づいてて来るのだから当然と言えばそうであった。そんなルテアを見て、主人公は過去にあった数々の出来事を思い出し激昂する。既にルテアは暴竜の真横に立っていた。


「ルテア!お前は――!!!」


 暴竜の正面に居た主人公は、魔法を唱えながら突風の様にルテアへ突っ込んできた。前面には風魔法で防御を、両手で持っているロングソードには炎を纏わせながらだ。


「くらえっ!」


 主人公が離れた場所から剣を振ると、剣から炎が横一文字にルテアへ飛んできた。


「……っ!」


「……ファイヤアロー」


「ロングショットなの!」


 ルテアは横に避けながらアイスガードを発動させると、遠くからシャントリエが20本はあろうかという炎の矢を連続で撃ってくる。アイスガードが砕け散ると、カレンが弓矢でルテアを狙ってきた。弓矢はルテアの足を掠め地面へ刺さった。弱い威力の魔法なのは、ルテアを心配――ではなく捕まえたいからだろう。


「……つうぅぅ」


 動きの鈍ったルテアに炎の矢が襲い掛かる。ルテアは顔を右腕で隠したが、腕や足、腹に炎の矢があたり火傷を作る。ルテアは痛みを悟られないように、元々そうであったが無表情で主人公の方を向き、後ろに跳躍しつつシャントリエへの足元辺りへ通常のアイスアローを撃ちこんだ。


「まだやるのか!」


 着弾すると土と泥が舞い、シャントリエが驚いて後ろへと倒れたことをルテアは確認した。セルリアがシャントリエへ駆け寄っているようだ。


 ルテアの攻撃と同時に、主人公は倒れた暴竜を背にしてルテアへと駆け出す。ルテアはさらに後ろへ跳躍するが、主人公は着地して体勢を整える瞬間を見計らい剣を振る。ルテアは長い矢を両手で持ち、剣の代わりにして防御しようとするが、矢と共にルテアも弾き飛ばされる。


「降参しろ、ルテア!」


「……」


「無駄なことを!」


 泥の水溜りへと突っ込んだ状態のルテアは、通常のアイスアロー1本を主人公へと撃ち込むが粉々に砕け散る。主人公は怒りの表情でルテアへと突っ込んでくるが――。


「……」


 ルテアは短い矢のアイスアローを主人公へと撃ち込んだ。氷は粉々に砕けだが、矢は主人公の横腹を掠めて血や肉片が飛び散った。主人公は剣を握ったまま、速度も落とすこともできずに地面へと倒れこむ。


「お前えええぇぇ!」


 主人公がふらつきながらも立ち上がり、ルテアに剣を向ける――と同時に倒れていた暴竜が口を大きく開き、口の中に炎が凝縮して光が溢れる。ルテアに剣を向けていた主人公は、振り返るとその光景に茫然とする。


 ルテアは知っていた。ゲームでは初見殺しといわれていたイベントであった。


「邪魔だ」


 ルテアは足の痛みをこらえて、主人公へと走り出す。一方、主人公は固まったまま動かない。口を開けた暴竜の向こうでは、フィリカやカレン、シャントリエが叫んで攻撃をしようと様子がルテアには見えた。主人公は固まりから解け暴竜へ動き出そうとするが、ルテアは主人公を突き飛ばし暴竜へ向かう。


「アイスガード」


 ルテアは倒れたままの主人公の前に気休めのアイスガードを置き、息絶え絶えながら走り出す。


「アイスアロー」


 ルテアは走って主人公と距離を離しながら、暴竜の首元へと短い矢のアイスアローを放つ。暴竜の眼が細められ、首がルテアの方を向く。ルテアの足は悲鳴を上げ、ひどい頭痛と眼のかすみが襲ってくる。


「……アイスジャベリン」


 暴竜はそんなルテアに狙いを定める。暴竜の口には眩しいほどの光が溜まり、既に発射する寸前であることは誰の目にも明らかであった。そして、主人公から距離が離れたことを確認し、眩しい光の中にアイスジャベリンを全力で撃ち込む。ぼんやりとする頭の中で、ルテアは今更ながら思い出す。


「あぁ、そうだ。主人公の名前って自分の名前――」


 ルテアが見た最後の光景は、夕焼けを背にした暴竜へ向かうアイスジャベリンの軌跡と、視界全体を覆う光、最後に暗闇であった。


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