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翌日ルテアが麻袋を背負って登校すると、皆ルテアの方を向きひそひそ話をしているのだ。その内容はいやでもルテアの耳に入ってくる。
内容は昨日の出来事のようだが、尾ひれがついていた。その話を聞きゲームでの入学直後のイベントに全く同一であることをルテアは思い出す。その内容は”ルテアという新入生が、新入生の第2王子を攻撃し、撃退された”という話だった。
「どうしてこうなった……」
そしてルテアはそのまま教室へ向かうとするが、廊下で教師に呼び止められ、学園長室へ向かうよう指示される。学園長室は学園のメイン棟3階の見晴らしのいい場所にあった。付近には生徒会室もある。
「失礼します。ルテアです」
「お入りなさい」
大きな木製のドアをノックし、ルテアが中へ入る。赤い絨毯の広い部屋の奥には大きな机、壁には本棚がずらっとならんでいる。机の向こうの豪奢な椅子には学園長である女性が1人座っている。年は50前後くらいだろうか。茶色の髪を頭の後ろでまとめ、黒色のローブを羽織っている。
ルテアは彼女の前まで移動し、麻袋と鞄を床に置く。
「ここに呼ばれた理由は分かりますね?」
「……」
「……では簡潔に。貴女は今日から1週間謹慎となります。しかし、貴女の状況について既にタロン家からは連絡が来ています。その為、学園裏の旧校舎で生活してもらいます」
その後、学園長から本来は停学であったとの話が合った。しかしイレーネより話を聞き、1週間の謹慎で処分することになったとルテアは聞く。学園には遠方からの生徒を受け入れるための寮もあるが有料であり、学食や衣服の生活費、2年・3年分の学費のため金を稼ぐ必要がある。
「旧校舎の管理については、シトルへお聞きなさい。教科書はこちらですよ」
「はい」
その後、ルテアが学園長の言うとおりに用務員室へ行くと昨日のお爺ちゃん、シトルが小さな部屋のちゃぶ台でお茶をすすっていた。部屋は8畳ほどだろうか。
「どうしたかね?確か名前は――」
「ルテアです」
「おお、すまんね。年を取ると物忘れが激しくていかんな。お茶でも飲むかね?」
シトルが笑顔でルテアに話かける。ルテアがうなずくと暖かい麦茶のようなものを持ってくる。ルテアが飲もうとすると腹の虫がなった為、シトルはお茶請けのクッキーをルテアに進めてきた。そして、旧校舎のついての話となる。
「ほれ、これが旧校舎のカギだ。1階の奥に休憩室と水場があるからそこを使うといい。ただし、時々好奇心のある生徒が旧校舎に入り込んでいると聞く。荷物は紛失しないように床下へ収納することだ」
「ありがとうございます」
「ふむ。君に一つ聞きたいことがある」
「何でしょうか?」
「――ルテア君。君はこのような結果になり、後悔しているかね?」
「結果として散々な目に合っていますが、あの時飛びかかったことは後悔はしていません」
「うむ、いい返事だ。まだ午前中だがこれからどうするのかね?」
「寝る場所の掃除と、手持ちのお金を増やす手段を考えます」
「そうか、そういうことならワシにも協力させてほしいものだ。掃除が終わったらここに来るといい」
シトルがニヤリとルテアに笑いかける。ルテアは会釈をして部屋を出ていく。
「彼女がルテア君か。噂通り……という訳ではなさそうだの」
今日は快晴。絶好のお掃除日和であった。
*****
午前中、旧校舎の部屋掃除をしたルテアは用務員室へ向かった。休憩室は10畳ほどで若干広く、空の木棚がいくつか揃えられていた。旧校舎もわりかし綺麗であり、休憩室の埃も少なく綺麗なものであった。
「それでは行こうか」
「どこにでしょうか?」
シトルがルテアを上見て下見て問いかける。
「剣術は無理そうだが、魔法は使えるかね?」
「水系統の魔法が使えるかもしれません。使い方はわかりませんが……」
魔法学園は魔法が使えるもの、魔法が使えないが素質があるものが入学する。魔法学園卒業が一種のステータスであり、魔法を使えるようになるには訓練が必要であるが、貴族――所謂、お坊ちゃんお嬢ちゃんは入学することで満足することが多く、実際は入学してから勉強することが多い設定だ。むしろ村人の方が実戦的な魔法の訓練を行っている。
「ワシの得意は風魔法だが、最初は全然使えなかったよ。練習あるのみだ」
「はい」
「という訳でまずは魔法の訓練だ、ルテア君。君は謹慎となっているから訓練場は使えない。そのため訓練は学園裏の林で行う。これを食べたら林へ行こうか」
ルテアの前に紙にくるまれた肉と野菜の挟まったパンが置かれる。油の滴る分厚い肉と新鮮な野菜に、この世界に来て初めて食べるまともな食事に感動したルテアの目には涙が少し浮かんでいた。
その後、シトルによる魔法講座と訓練が開催される。魔法は世界に満ちている魔力を手元に集めてイメージを作り行使する事だと説明があった。魔法は口に発しなくとも行使は可能だが、集団戦では口に出すことで種類やタイミングを知らせる意味があるとのこと、また口に出すことでイメージ化しやすいそうだ。
魔法を使うことで心や体に疲れが出るが、訓練によって連発が可能であり、威力も上がるとシトルは話す。
「まずは魔力を掌に集めて、水球を想像するんだ」
「……魔力の集め方はどんな感じでしょうか?」
「ワシの掌に触れるんだ」
シトルのごつごつした手の上にルテアの手が置かれるとシトルは風魔法を使う。シトルの手の周りは空気の密度、が上がるような、水に手を入れたようだとルテアは感じた。
「やってみます。水のボール水のボール水のボール……」
ルテアは目を閉じ野球ボール大の水球を想像すると、掌に魔力が集まってくるのを感じる――が集中力が切れてしまい、魔力は霧散する。その後、水球が出せるまでに2時間ほどかかるのだった。
水球が出せるとその後は早かった。ルテアは水球から氷玉へ、氷玉を水球へ変化させ、さらに氷玉の形状を変化させることにした。氷玉を初めて出すと少し眩暈がしたが、何度か繰り返すと眩暈も収まってくる。
魔法で作った水は生ぬるいが飲めるようだ。また、氷は集中力を切らせるか、一定時間経つとバラバラに砕け散り水となる。
「アイスアロー!」 「アイスジャベリン!」 「アイスナイフ!」
アイスアローは長さ5cm程の氷の針だ。2本同時に射出可能で射程は40mはあるだろうか。アイスジャベリンは長さ20cm程の氷の槍でつららのように先端が細く、後方が太くなっている。こちらは1本しか射出できず射程は20m程だ。最後のアイスナイフは刃の部分が20cm程の氷のナイフとなっている。
「今日はここまで。明日はギルドへ行くから午後に用務員室へ来るように」
「ありがとうございました」
旧校舎を背に日が沈みかけるあたり一面真っ赤な中、林の出口でルテアはシトルと別れて旧校舎へ向う。威力は弱いが、それなりに攻撃魔法が使えるようになったことから、明日はギルドに加入して仕事を受けることになったのだ。ギルド加入は16歳以上からとなっているが、学園推薦状があれば加入できることになっており、シトルは推薦状を入手してくるという。去っていくシトルの背中にルテアは呟く。
「一体どんなルートがあるのやら……」
*****
1週間後、ルテアが受講したい講座を確認して教室の扉を開けると、教室内の騒ぎ声がぴたりと止まる。不気味なほどの静寂が教室を支配する中、ルテアは最後尾端の椅子に座り、顔を机に伏せるとヒソヒソと声が聞こえてくる。
ルテアはギルドに加入してから6日間ひたすら獣狩りをして疲れていた。ギルドに加入後、少ない金でコートと古着、ナイフとメタルマッチとバッグを揃え、最初はウサギ狩り、次にヘビや野犬、そして野鳥狩りをして小金を稼いだのだ。最初は生きていた生暖かい血まみれの獲物を捌くことは無理だったが、シトルの勧めもあり、今では無心になって何とか捌けるようになっている。
「見てよ、あのルテアよ」
「まじかよ。てっきり退学したかとばかり」
「家から勘当されたって聞いてるぜ。どうやって金を稼いでいるのやら」
どうやら1週間で随分と噂が広まったようだ。きまずくなったルテアは顔下に向ける。
「おはよう皆さん」
「「「「おはようございます」」」
「嗚呼、”あの”ルテア君もいるのか。君のことは色々と聞いているが、講義くらいは真面目にして欲しいものだね」
教師もルテアがいるのが気に入らないのかチクリと釘を刺してくる。
「……」
結局、ルテアが授業に出席したのはその1日だけとなる。その後は学園裏の林で訓練を、図書館で勉強を、ギルドで金稼ぎをする日々を送ることになるのだった。
*****
「ルテア君。話がある」
「何でしょうか?」
入学から既に2か月過ぎ、小雨の季節に入っている。窓の外は薄暗くしとしとと雨が降っている。そんな天気の中で、シトルはルテアに話しかけた。ルテアはあれから淡々と獣狩りを行い、血を見ることにも慣れてきた。魔法の威力も上がり、日々の走り込みで体力や運動能力も上がっている。
「学園長からワシに話があってな。君にフィリカ君の護衛をお願いしたいと話してきた」
「……」
ルテアは先日あった騒動でのフィリカの物理的に刺すような視線を思い出し固まった。ギルドの仕事で野犬狩りをしていたとき、群れから漏れた野犬が他のギルド員へ流れたのだが、それが主人公たちのパーティーだったのだ。そして、その野犬を追ってきたルテアに対して、フィリカから”あのルテアさんですか。やっぱり噂は本当だったんですね”と言われたのだ。
今までは主人公やフィリカに巻き込まれないよう、できる限り避けていたが、わざわざ火の粉を浴びることをする人はいないだろうと考えた。もしも隠れて護衛しても、接触する機会は確実に増えるだろう。
「それは無理です。何故、学園長から直接言ってこないのですか?」
「……話には続きがある。もしも辞退するならば、旧校舎の使用取り消しとギルド加入取り消しだそうだ。ワシの口から言わせることで逃げ道を防ぎたいのだろう」
「脅しですか……」
「しかし護衛をするならば、一定額の報酬と特別報酬が払われるそうだ」
「そもそも彼女の護衛が必要な理由を教えてください」
「先日、彼女が訓練で大怪我をした同級生の傷を光魔法で直したのは知っているかね?」
この時期のイベントで主人公が魔法訓練時に同級生の魔法に巻き込まれ大やけどをしたイベントをルテアは思い出した。
「怪我を直すのは、他の光魔法使いでも同じでしょう」
「それが違うのだよ」
シトルが言うには、治療の精度・速度・持続力共にそれを目にした教師が驚愕するほどだったそうだ。彼女は田舎育ちであり、光魔法は多用していたが、それでも他の光魔法使いとは一線を画しているとのこと。これからの成長への期待と共に、彼女を狙う輩も多くなるだろうと話してくる。
そしてそんな輩を排除するため、攻撃魔法を覚えて実戦をこなして成長しつつあるルテアに学園長は目をつけたとのことだ。独り身で後がなく、既に悪い噂のあるルテアには適任な――詰まる所、汚れ役であった。
「わかりました」
「持ちかけたワシから言うのは何だが……済まない」
窓の外の雨は小雨から大雨へと変わり、静かな部屋に窓を打ち付けている雨音が響いていた。




