小春日和。。
随分昔、春なのか夏だったか…もしかすると冬だったかも知れない。ただ七海も傍には居なくて小春一人でお婆様に呼ばれたのだ。
幼い小春はお婆様が苦手だった。母からの小言のせいもあったかも知れないけど彼女の周囲は時間すら凍っているのではと想わせ童話の氷の女王とダブらせていた。
「いいかい、小春は白城の家の正式な跡取りになるんだよ。」
順番的にもおかしい幼い小春にも解る。
本来お母さん若しくはお父さんが筆頭で来なければおかしい。でも口答えは許さないと紅緒お婆様は無言で圧を掛けてるのが解りブルッと震えて小春は襟を正した。
少し息を吸い吐き出すように言葉を紡ぐ。
「…お言葉ですがお婆様…」
その言葉は紅緒の目を見て喉奥で止まってしまった。
「静は駄目。汚点は表には出せない…だから小春なのよ。」
汚点…。優しい母が汚点と言われたのがショックだった。しかし、反論するには小春は幼すぎた。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
「小春姉さん?…ねぇ…まだ怒ってるの?」
七海は不安そうに覗きこんできた。眉毛がハの字になってるのは小動物を連想して抱きしめたくなるくらい可愛い。
「怒ってないわよ。…ただ白城のお家は七海は…好き?」
「うん。お父さんもお母さんも、優しいし…特に小春姉さんが居るから…大好き♪」
この質問は失敗したと小春は思った。七海の不安を煽ったに過ぎなかったからだ!
元気が取り柄に思われがちな七海だけど感は鋭い賢い子だと小春は知っていたからだ。
「ん。ただ七海はどんどん大きくなって白城の屋敷を出ちゃうのかなって…ね。」
返事が無かった。
静かすぎだった。
七海はただ、小春のスーツの袖口をキュッと掴んで声を殺して泣いていた。
小春は空いた手を使い七海を自分の胸に招き入れた。
「七海ちゃん。どうしたのかな?」
「…グス…お姉ちゃんは…ママも…パパも…なちゅみも…みんな…みんな…いら…無い…の?」
七海は絞り出し言葉を…思いを吐き出した。不安も恐怖も心配さえ全て無かった物にしたかったからだ!
小春は知っていた七海の心を不安定にした存在を…紅緒…お婆…様っ!くやしかった…ただくやしかった。七海を守る事すら出来ない弱い自分が憎かった。後悔は後で沢山出来る!
でも、今はかけがえの無い愛すべき妹が優先だ!!
「お姉ちゃんもみんなのこと大好きだから、それに七海ちゃん居ないと私困っちゃうわ。」
七海が袖口から手を離してくれたお陰で頭を撫でる事が出来た。
愛すべき妹はただ静かにされるがまま頭を撫でられていた。
「七海はお姉ちゃんだけだもん。…小春姉さんが大好きなんだもん!」
「それは有り難いけど…降りる駅過ぎちゃったよ」
今度は小春が余計なことをしたから何も言えなかった。
「………お姉ちゃん、ごめ…」
「七海ちゃんごめんなさい。」
小春も七海も姉妹で良かったと思った。
ただもう少し歳が近ければ学校生活を一緒に出来たのにとそれだけが寂しかった。
近すぎるのに遠い…超近距離恋愛。
僅かな時間。
深まる恋心。
それは、束の間の幸せ。
次回:小春日和。。。お楽しみに。