七海デイズ。
私にとっての姉は、世界の全てだった。
曖昧模糊とした目覚めの先に待っていたのは絶望という闇が拡がっていた。
指で………舌で………全身で姉を貪り愛し合った事実は決して夢では無い。
『七海。小春の真実を知りたければ碧葉家に行きなさい』
確かに静は、そう言っていた。
駅のホームで電車を待つ。ボストンバッグの重みが現実だと教えてくれる。
「………待ってて下さい姉さん」
七宝焼のペンダントを軽く握り祈りを捧げる。
しかし、七海を裏切る様にその年の瀬に私宛に届いた手紙には小春の結婚式の招待状が届いた。
丸めてゴミ箱へ投げるがゴミ箱はガンと弾いて外に漏れた。
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碧葉家に住みはじめてから初めての春を向かえた。
こちらの生活にも慣れ、学校でも友人は出来たが小春をまだ諦めることは出来なかった。
姉に何度もメールや手紙を送ったが全てなしのつぶてで返信は皆無だった。
悲しくて泣いた夜は数知れずだった。
しかし、碧葉家の義父も義母も七海を家族として優しく迎えてくれた。
碧葉家に行く際に紅緒との約束があった。
『白城家から離れて碧葉家に入ること』
理不尽とは思いながらも実行していた。全ては小春の為だったのに…………小春は嫁いでしまったのだ。
「泣いていても状況は善くは成らない!」
『静の私物なら倉庫に保管してるでなぁ』
幸い碧葉家の倉庫は広くはなかったから静の私物を探すのは簡単だった。
しかし、日記だけでもかなりの量があり全てを読むだけでも時間が掛かりそうであった。
ただある一ヶ所から静の筆記に変化があった。
『何故私はあの時に、何時もの通路を使わなかったのだろうか。悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい…………私は忘れたいのに……男の薄汚い手で汚されて下卑た笑い声で私の耳を……心を犯し………男達の体液で無惨に散らされた………殺したい!殺したい!殺したい!殺したい!殺したい!殺したい!』
ショックだった。
卑劣な行為に怒りて脳が焼き切れると同時に吐き気がした。
これが小春の事実なのかと思ったが、続きがあった。
『………実には済まないと思う。でも今の私には実は必要なのだ!男が恐くて恐くて恐くて………いつかは実も好きな人が出来て私の傍から居なくなってしまう………そんなのは嫌。実を私の傍から離れなくする方法を考えなきゃ!実を私は好き。実は私を好き。実は私の物。私は実の物。実は誰にもわたさない。実は弟には見れない。実は私を拒まない。実は私を傷付けない。実に何をされても大丈夫。実を犯す。実に犯されたい。実は私の大切な人。私は壊れてしまった?……いいえ正常に動き始めたんだ!全ては実のお蔭だ♪………そうだこの後玄関で実が私に気付いたら実行すれば良い!…………これで私は浄化出来る!私は………私は………実を愛しているのだから!この恋の障害になるなら神様だって殺してみせる!』
徐々に壊れていく静の心。今は少しだけ理解出来た。
しかし、日記は次のページは破けて無く次の日記を読み始めた。
『碧葉家に来た理由を実は知らないだろう。日に日に大きくなるお腹…………この子には罪は無い。悪いのは全て私なのだから………でも、大好きな彼の子供を授かって苦痛より幸せで一杯だ♪』
…………ここまで読んで理解出来なければバカである。小春の実父は叔父の実となる。
私と姉は父親違いの姉妹となる。
異常だ!
異常だけど…………小春を未だに想ってる私も充分異常だ。
最後のページに母子手帳が挟んであった。
母親 白城 静
父親 白城 実
子 白城 小春
私は数ヶ月ぶりに丸めた結婚式招待状を開いた。
新婦 白城 小春
新郎 御法川 実
「…………まさか?」
事実を確認したくて、義母に聞いてみる。
「義母さん、御法川さんって知ってますか?」
「…………すまないね。御法川って方が何方かは知らないけど………小春の父親なら死んだよ」
義母さんは戸棚から日記を取り出した。
静の日記だった。
日記の締めくくりに、『実家から連絡があった。信じられない…………実が死んだなんて!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!嘘だ!…………………………』
「実叔父さんは死んだのですか?」
「私も詳しい話は知らないが、蔵で焼死体で見つかったとか」
「………焼死体ですか」
小春編終了を考えたのですが、七海編に移行したほうが繋がりが良いと思い移動しました。
覆面男の名前でました。
見合いの席でどんな話をしたかは、もう少し後で。
では。




