外伝3 「傭兵の見た夢」
登場人物紹介
・ニューアスメリア合衆国側傭兵
「アーク・トライバイン」
22才・男、O・Hの一人、通称「アナザー・アクチュアリー」この先起こりうる未来を予測する。割りと寡黙で自分の能力に振り回されている。
集団行動が苦手で、人と関わり合う事を嫌う
趣味は平静に生きる事。
16才の頃から銃を手に取った彼は傭兵という性質上各国の戦場を転々としていた。
18才を超えたあたりからたびたび妙なフラッシュバックが彼を襲う、その記憶がこの先起こる未来を暗示していたのだが彼は気に留めなかった。そうして彼は同じ仲間を救えなかった事に対してひどく悔やむ事となる。仮にその通り行動しても外れる事もあったため全てがどうでもよくなった。
「ユリン・カナッサ」
18才・女、アークと同じ傭兵隊に所属している女性。
活発で他者を気遣う事を忘れない。
生きる事に前向きだが、相手を無理やり自分のペースに付き合わせるきらいがある。
将来の夢は花屋さん。
・カルナダ連合側傭兵
「レヴァン・クーパー」
25才・男、S・Sの一人通称「ゴッド・フォーカス」完成された予測による回避、反応を得意とする。好戦的で闘う事に対し最上の快感を覚える。
性格はガサツで野蛮、アークとはいくつかの戦場で一緒に戦っていた。
趣味は興奮する戦いをする事。
12才の頃から少年兵だったレヴァンは敵をぶちのめす事に快感を覚えていた。どう動けば自分は相手に勝てるのか?その問いに答えを出すため一心不乱に戦場を駆け回る。数えきれないほどの戦場を駆け巡る頃には相手の攻撃が手に分かるようになっていき、さらに戦えば戦うほど彼の能力に磨きがかかっていった。
O・H
「アナザー・アクチュアリー」
能力所有者:傭兵「アーク・トライバイン」
特徴
・これから起こりうる未来の断片を予測する。
・形は様々で夢、フラッシュバック等の形で見る事になる。
弱点
・的中率は7割弱といった所。
・そもそも能力ではないのかもしれない。
S・S
「ゴッド・フォーカス」
能力所有者:傭兵「レヴァン・クーパー」
特徴
・神憑った予測で敵の動きに反応する
・あらゆるパターンをすぐさま選出する。
・主に敵の動きに作用する。
弱点
・完成という概念がない事。
・対人戦以外に作用しにくい。
戦争という行為には傭兵が付き物である。カルナダ連合とニューアスメリア合衆国の戦争も例外ではなかった。この両国も自国の兵士を消耗する事を良しとせず多数の傭兵を雇い入れ支配下に置いていた―――
ニューアスメリア合衆国から海を隔てて南からそう遠くない位置に存在する。
ミドガルズ王国、ここは長年の紛争、資源の枯渇により経済難に見舞われていた。
主な産業は傭兵稼業だったが世界各国からのバッシングにより世論の評価は厳しいものがあった。
ニューアスメリア合衆国側に雇われていた傭兵「アーク・トライバイン」もまたこの国の出身者であった―――
中央戦線・ニューアスメリア軍とあるキャンプ―――
激しい空襲が自分達を襲っている、顔は見えないが自分はどうやらこの壊れたようにあざ笑う敵兵に怒りを感じているようだ―――
ふと誰かに声をかけられ我に返る、どうやらまた例のアレ≪アナザー・アクチュアリー≫によってフラッシュバックが起きたらしい。
たまたまアークを見つけた同じ傭兵の少女は、この男に向かって話かける。
ユリン 「アークさんですよね?何ボーっとしてるんですか?寂しい顔をしているとこれから起こる楽しい事も逃げちゃいますよ?」
少女にはまだあどけなさが残っている、恐らくは十代だろう―――
兵士達の間で自分が何と呼ばれているか知らぬ訳でもなかろうに、アークは少女に向かって聞き返す。
アーク 「兵達の間で俺が何と呼ばれているか知らぬ訳ではあるまい?なぜ俺に近づく?」
ユリンはどこか困惑した表情つきで話す。
ユリン 「死神でしたっけ?そんな事私は気にしませんよ、何というかアークさんからは私がいた国と同じ匂いがするんですよね…」
そう言うと彼女は自分の国から持ってきたと思われる所持品をちらつかせる。
押し花である、それはミドガルズ特有の花であった。アークは自国にしか咲いていない事を良く知っていた。
アーク 「お前…ミドガルズ出身か?」
ユリン 「なんで分かったんですか?まさか…エスパー?あ!もしかして同じ国出身とか…」
ユリンは同意を求める様にしつこく迫る。よほど嬉しかったのだろう、続けて自分語りを始める。
ユリン 「よかったぁ~、私以外にもここにミドガルズ出身の人がいてくれて、傭兵産業なのにミドガルズ出身の人いなくて。あ!私ユリンって言います。」
この少女はまだ知らないのだろう…、ミドガルズ出身という事を明かせば周りから冷たい目で見られる事を。
少女のテンションについていけなくなったアークは自分の場所へと戻る、後ろから呼び止めらる声が聞こえてきたが気にせず立ち去った。
その道中アークを見る兵士が噂する。
「おい、あいつまた戦場から一人だけ戻って来たらしいぜ。」
「知ってるぜ。死神だっけか?」
「あいつも氷の英雄≪アイスマン≫と同じでO・Hなんじゃないか?」
「あんまでかい声だすなよ、あいつと一緒にするなよ氷の英雄≪アイスマン≫に失礼だぜ。」
兵士達の噂を気にせず自分の場所へと辿りついたアークは簡易ベッドで横になる。数時間程して夜になるとアークの部屋へ誰か入って来たようだった。
入って来たのは先ほど会話した、ユリンだった。
ユリン 「入って良いですか?」
アークはユリンに何だ?と一言いうとユリンはそのまま先ほど言いたかった事をアークに伝える。
ユリン 「この花、綺麗ですよね…、戦争が終わって戻ったら、稼いだお金で花屋を開きたいんです。アークさんはミドガルズへ戻る予定は?」
冗談じゃない、この戦争で生き残る事が出来たらニューアスメリア合衆国への移住権が得られるそういう契約をしたはずだ。
アークは夢見がちな少女に冷たく言い放つ―――
アーク 「俺はこの戦争が終わったら、この国へ移住する。ミドガルズには二度と戻らない。」
アークの言葉にショックを受けたユリンは、重い表情を浮かべながら一言。
ユリン 「そうですか…、でも私ミドガルズという国が好きです!確かに紛争とかで荒んでますけどいつかまた平和になると…今日はありがとうございました。私、かえりますね…。」
ユリンは自分の居場所へ帰って行った、アークは天井を見つめながら深い眠りに陥る。
先ほどの夢の続きだ、自分は戦場で血だらけになった少女を抱きかかえている。
この少女を自分は知っている、今日会ったばかりのユリンという子だ。
彼女を撃った敵兵は何かを喋った後高らかに笑い声をあげている。
「―――――が、―――――死んでいく。」
顔は見えない―――自分はこの声を聞いたことがある、自分はこの人物を知っている。
「―――――、アーク。」
最後に男が自分の名前を呼ぶ。夢はそれを最後に途切れた。
アークがベッドから飛び起き息を切らしている横にはユリンが立っていた。
心配そうにユリンはアークに話かける。
ユリン 「大丈夫ですか?何かうなされてましたけど…」
アークはユリンを見返すと、今見た夢の内容を強い口調で言い放つ。
アーク 「お前は今すぐ傭兵をやめろ!でないと死ぬことになる。信じるか信じないかはお前次第だが君が戦場で倒れているのを見た!」
あっけにとられた少女は冗談交じりに言葉を返す。
ユリン 「冗談がうまいですね。大丈夫ですよ私。こう見えても悪運だけは強いんですから。」
ユリン 「これ、作ったんです。」
と言うとアークの胸ポケットにミドガルズの押し花を入れる。
アークの言葉などいかほども信じていないようだった。
部屋に同じ傭兵の男が押し入って入る。
「まだ部屋にいたのか、部隊長が呼んでるぜ。これからブリーフィングが始まるらしいぜ。」
そういって傭兵はブリーフィングに向かう。
ユリンとアークもテント内からブリーフィング場へ向かう。
皆が集まるとニューアスメリア軍の部隊長らしき男が全員に向かって激励を述べる。
「―――――以上で作戦内容を終える、傭兵諸君等には特に頑張って働いてもらいたい」
若干ねぎらう様に部隊長は熱く語る。
作戦の中身というものは傭兵達と少数の正規軍を迎撃部隊と共に陽動しおとりになる事だった。
傭兵達は使い捨ての駒にされているんではないかという事を感じていた。
一通りのブリーフィングが終わり皆各々準備する。
迎撃ポイントへ向かっている途中アークにユリンが話かける。
ユリン 「アークさん、頑張りましょう。」
アーク 「なるべく、俺の近くをはなれるな。」
アークは自分でもなぜこの少女を気にかけるようなセリフを吐いたのか分からないでいた。昔同じ傭兵仲間を救えなかったせいなのか、それとも自分がこの少女に淡い恋心を抱いていたのかもしれない。
ユリンは唐突に返された言葉を聞いて顔を赤らめる。
ユリン 「アークさんって実は優しいんですね。ちょっとドキっとしました。」
アーク等が迎撃ポイントへ到着してから一時間が経過しようとしていた。
不意に自分達の陣地へ砲撃が撃ちこまれる。
爆発音をかき分けてカルナダ軍の軍勢がこちらへ向かってくる。
「カルナダの奴らがこちらへ向かって来たぞ!!」
ニューアスメリアの軍勢もただちに応戦を開始する。
辺りは銃声と砲撃の音が飛び交う―――
アークは8人目のカルナダ軍の兵士を葬っていた。
戦闘を開始してからどれくらい時間が経っただろうか?
空にはカルナダ軍と思われる戦闘ヘリが幾つも確認されていた。
降下部隊である。
降下部隊の強襲により徐々にニューアスメリア軍は劣勢に陥っていく…
アーク 「まだか⁉そろそろ撤退指示がきてもいいはずだ!」
そう叫ぶアークの頬を一発の弾丸がかすめる―――
敵兵はアークに銃口を向け、そのまま続ける。
レヴァン「よぉアーク。」
戦場に不釣り合いな位にレヴァンの声は響く。
アークはこの男を知っていた。
アーク 「レヴァン!!なんでアンタが…」
レヴァン「お前はニューアスメリア側についたんだな?なら俺達の敵って事だ!!」
レヴァンとアークはお互い銃を交える。お互いの銃弾が交錯する―――
アークはこの男の強さを十分に知っていた。その狂った性格性も。
レヴァンは続けてアークに問いかける。
レヴァン「前々から一度お前とは戦ってみたかったんだ!!」
その後笑いながら更に問う―――
レヴァン「お前に俺の姿はどう見えた?この後俺達はどうなった?なぁ教えてくれよアーク。」
アークは夢の内容を思い出していた。あの時高笑いしていた敵がコイツだとすると。この後は―――
この男は何度か同じ部隊に所属していたが、一度もこの男が夢に出てくる事はなかった。
アークとレヴァンの距離はどんどん短くなっていく。
レヴァンはどんどんこちらへ近づいて来る。
なぜかアークの攻撃にレヴァンはびくともしない。アークは徐々に追い詰められていた。
アークは銃口を突き付けられ、レヴァンを見上げる。
不意にレヴァンの横を弾丸が掠める―――
レヴァンを銃撃したのはユリンであった。
ユリン 「アークさん、退がって!」
レヴァン「何だぁ?ガキか…」
そう言い放つとレヴァンはユリンに向けて背負っているランチャーを向ける。
アークがそのすきにレヴァンにタックルを仕掛ける。
2人の男は密接に絡み合う―――
アーク 「逃げろッ!この男は君が敵う相手じゃないッ!普通じゃないんだッ!」
ユリン 「でもアークさんが!」
レヴァンはアークを追い払うとユリンに向けて発砲する。
ユリンは銃撃を喰らいその場に倒れた。
アーク 「貴様ッ!」
アークはユリンを撃った男に対し怒りをむき出しにする。
レヴァン「ここは戦場だろうが、強い奴が生き残り弱い者は死んでいく!お前だって今ままでそうやって生きてきたはずだろう?」
二人の男は更に銃を交える。一人は仲間を撃たれた怒りによって、もう一人は闘いを純粋に楽しむ様に―――
お互いの弾倉が空になると二人はナイフを構え睨み合う。
アークの無線に通信が入る。
「この辺りを味方が爆撃を開始する!全軍撤退しろ」
通信が途切れる。
戦場全体が戦闘機による空襲で爆撃にみまわれる。
レヴァンはアークに向けて言い放つ。
レヴァン「そうか、そういう事か通りで敵の数が少ないと思ったぜ。縁があったらまた会おうぜ、アーク!」
高笑いしながらレヴァンはアークに背を向けて戦場を離脱していく。
アークは倒れているユリンに駆け寄ろうとする。
しかし空襲により彼の行動は遮られる。アークは否応なしに戦場から離脱する事となる、その場に彼女を残して―――
―――中央戦線・とある駐屯地
兵士の一人が噂する。
「傭兵の中で生き残った奴はあいつだけらしいぜ。」
「あの爆撃の中ここまで辿りついてきたってのか?」
「あいつと同じ地区の奴は皆死んだって噂なのにな。」
アークはうつむいて誰もいない空間に向けて一人言を放つ。
アーク 「どの戦場でも傭兵はぞんざいに扱われる…、そして生き残った者だけが死神と呼ばれるんだ…」
アークはユリンから貰った押し花に目を追いやる。少女の言葉を思い出しながらつぶやく。
アーク 「花、か…」
空からは雨がポツリポツリと傭兵を慰める様に降っていた…
*別に傭兵達は能力の事を自覚していませんし自分で自分の能力に名前をつけている訳ではありません。敢えていうならばこんな感じかな?という事です。