第3話「交戦」
野営から出発して、それなりの時間が立とうとしていた。
時刻は午前7時すぎだろうか…、ふとサイドミラーを見ると後続のタイラーが眠たそうに、トラックを運転している。それもそのはずである、ダン、タイラー、バリーの3人はほとんど休憩をする事が出来なかったのだから。
気分が優れないのか、ダンは煙草をくゆらせる。
運転席のマイキーが口を開く。
マイキー「いやぁ~、雨どんどんひどくなってきたっスね。」
あぁ…と、一言つぶやくと外に目を追いやる。
天気も薄暗いと、何やら気分もすぐれない。ダンは呆然としていると、無線機からタイラーの声がジープ内に響く。
タイラー「トラックのガソリンが、もうすぐ切れそうだ。」
ダン 「わかった、一旦車を止めよう。」
車を止め、タイラーは予備のガソリンを詰め込む、何事かと気になったバリー等3名も降りてくる。
ダン 「バリー、金の件は何とかなりそうか?」
ダンの問答に奥ゆかしくバリーは答える。
バリー 「丸ごと全部を引き受けてくれそうなとこが見つからない。ビビッっちまってんだろうな…」
バリーは続けて話す。
バリー 「タイラー、補給が終わったらドライバーは俺がやる。マイキーお前も少しトラックで休んでいろ。」
野営が出発してからというもの、不満気に思っていたティナがバリーに噛みつくように口を開く。待機待機で恐らくは、女である事に対して気を遣われるのがかんに触ったのかもしれない。
ティナ 「運転ぐらい私にだってできます!!」
ダンが諭す様にティナをなだめる
ダン 「お前は衛生兵という役割があるだろ?お前に何かあったら誰がケガ人の治療をするんだ?お前のおかげでチェイスは治療が出来た。」
ダンの言葉にチェイスやマイキーが首を縦に振る。
先程のひと悶着から何となく雰囲気が悪くなっていった。
ダンは何となくこの淀んだ空気を、払拭しようとした。
まだ東部戦線の戦闘が激しかった頃、部隊内の士気が戦闘の勝率、または生還
に大きく作用する事を知っていたからである。
ダンは5人に向かって叫ぶ
ダン 「金はたんまり手に入るんだ。この情報で俺達が正しいって事が分かれば、俺達は国のヒーローだぜ?もっとポジティブに行こうじゃないか諸君。」
そう言ってみんなを励ます。
タイラー「聞いたか?俺達は国のヒーローだぜ?だとよ、金のおまけ程度しか思ってねぇくせによく言うぜ。」
ニヤニヤしながらタイラーがダンの口調を真似して笑いを取る、何となく淀んだ雰囲気に活気がもどる。
そんな中バリーだけが難しい顔をしていた。決して笑いたくなかった訳ではない、ただ心配だったのである。
これからの動向については一通り皆には説明はしてある。問題は≪S・S≫と物資の問題だった。アージニアへ最短距離で詰めても最低10日はかかる。
それまでにどう調達するか…
彼等は霧と雨のせいで気づかなかったのかもしれない。
すぐ側に特殊部隊≪デスゲイルズ≫が迫っている事に…
部下の1人がガフガンに向かって報告をする。
「目標を発見しました!情報通り丁度6人です!」
ガフガン「いいか、奴らは一度先発部隊と言えども我が隊を打ち破っている。舐めてかかると手痛い反撃を喰らうぞ!心して作戦にかかれ。」
そう言うとダン達がいるエリア内を包囲をする。
ダン達は後ろを包囲されると咄嗟に武器を身構えた。
ガフガンはダン達に向けて牽制する。
ガフガン「我が軍の基地から奪った物資を返還しろ、諸君等がニューアスメリア軍の脱走兵だということも我々は掌握している。大人しく物資の返還に応じるなら命の保証はしてやっても良い。…おい、ブルー。」
トロン 「…はい。」
トロンは返事に応じ、ダンの足元付近の地面に向かって雷撃を放つ。
一同は驚愕を隠せなった、映画や漫画に出てくる、それも敢えて言うのであれば≪超能力≫そんな物を本当に持っている奴がこの世にいるなんて…
しかもその≪超能力者≫は敵であり、今我々を殺そうとしている。
真っ先にアクションを起こしたのはバリーだった。彼は素早く、スナイパーライフルでデスゲイルズ隊の車両一台を撃破すると仲間に向かって叫んだ。
バリー 「モタモタするな!!サッサと車に乗り込め、とっととづらかるぞ!!」
ダンとタイラーはジープに乗り込み、バリー等4人はトラックへ乗り込んだ。
流石にガフガンは先発隊と違い動揺を抑えて即座に追撃を開始した。
ガフガン「追えッ!!、なんとしても逃がすなッ」
トラック内で通信が響く―――
ダン 「何だ⁉ありゃあ⁉」
バリー 「カルナダの奴らはビックリ人間の出現に研究をそそいでいるのかね?恐らくはあれが文書に書いてあった≪S・S≫って奴なのだろうが…、ダン後ろを見てみろ。」
ダンがサイドミラーに目をやると、装甲車7台程が自分たちを追っていた。
2人ははぐれない様に車両を平行に並べるが、デスゲイルズの激しい銃撃によりダン達のジープはカルナダ国境沿い方面、北へと進路をとらざるをえなくなった。
バリー等4人の乗ったトラックはアージニア共和国方面、東へと向かって行った。
別れ際にバリーからノイズ混じりで通信が入る―――
バリー 「……るか?…ン…カ…ヤク……うぞ…」
その後何度か無線機をコールしても、バリーの声は返って来なかった。
ダン達のジープは3台の装甲車に追われていた。タイラーはマシンガンで応戦する、ダンがタイラーに向かって叫ぶ。
ダン 「後部座席にRPGがあったはずだ、ソイツを敵にぶち込んでやれ!!」
タイラーはRPGを取り出すと敵の車両めがけて打ち込む―――
タイラー「くたばりやがれぇぇ!!」
敵の装甲車2台は巻き込む形で爆発し炎上していった。
残りの1台は味方の救出を優先したのか、バックミラー越しにどんどん小さくなっていった。
一方バリー等4人はブルー・ボルト含む4台の車両と交戦状態であった、バリーは何とか敵の雷撃と銃撃を凌いでいた、雨のせいなのかはたまた、森などの障害物の多い地形のせいなのかトロンは雷撃をあてられずにいた。
トロン 「クッ!!先発隊を倒した腕前ほんとのようね…」
「敵のドライバー中々の腕ですな。」
バリーは先程からトロンの能力を観察していた。
何か作戦を思いついたらしい、後ろで迎撃をしている3人に向かって指示を出す。
バリー 「俺が援護射撃を行うッ!奴が次に雷を放つタイミングに合わせて、金や金属類を投げつけろ!!」
指示を受けた三人は急いで車内のテントの骨組みや金塊を集めて回った。
ティナ 「良い?あのカミナリ女が次に手をかざした時に一斉に投げつけるわよ。」
マイキー「オーケー!」
チェイス「うん、わかった。」
バリーはトロンに向けて牽制射撃を行っていた。
トロン 「なんて、うっとうしいッ!」
そう言い放つと今度こそ外すまいと狙いを定める―――
その瞬間、雷撃を放つと共にトロン周辺に向かって金属片が飛んでくる。
トロン 「え⁉何⁉」
「うわッ⁉」
「うおぉおぉ⁉」
バリーの予想は大当たりしたらしい、金属伝いに電撃が飛び散り敵は味方を巻き込んでショートして動かなくなった。
走行不能になった装甲車はやがてミラーから消えていった…
何とかデスゲイルズ隊を振り切った、ダン達2人はガス欠となっていたジープによりかかり呆然と夕日を眺めていた。
ダン 「バリー達とはぐれちまったな…」
タイラー「弱気になるとか、お前らしくもない。」
タイラーは、珍しく落ち込んでいるダンを励ます。
それから暫くしてタイラーは何か見つけたようだった。
タイラー「おい!ダン。あれは何だ?」
遠くで明かりが見えるのが確認される、恐らくはカルナダ連合軍の駐屯地か何かだろう。
ダン 「この格好じゃ…」
と言いかけると何かを思い出したかの様におもむろにジープ内をあさる、あったと一言付け加えると取り出したのは捕虜から押収した軍服一式だった。
ダン 「これなら駐屯地に潜入出来る。さっそくプランを立てるぞ!」
かくして2人は駐屯地への潜入ミッションを仕掛けるのである―――
しかしそのカルナダ連合軍の駐屯地には恐るべき能力を持つ人物が転属されているのを2人はまだ知る由もない―――