その4
アパートに戻ると、木村は全ての明かりを点けた。部屋中を見回したいような気にもなったが、それもできない。見えたら困るからだ。自分の部屋なのに…情けない気持ちが渦巻く。
木村は、軽くシャワーを浴びた。シャワー中も落ち着かない。
バス・ルームを出ても、気が落ち着かないので、学生時代の友人である佐々木に電話することにした。部屋の隅にあるベッドに腰かけ時計を見ると、十二時を過ぎたところだ。学生時代なら、何の気兼ねもない時間なのだが、今はお互い社会人…もう就寝しているかも知れないが、取りあえず呼び出してみることにした。
木村は携帯を手にコールした。
五回目のコールで、佐々木は出た。
「おぉ、どうした?」
第一声だった。
「悪いなぁ、こんな時間に…実は相談があってさ。」
「何だ、先生辞める決心ついたか?」
今時の新社会人の挨拶は、いつ仕事辞める?が定番だ。
「違うんだ。実は…」
「何だよ。」
「言いにくいんだけどよ、お祓いできる場所知らないか?」
「はぁ?」
木村は、今日の午後の内容を事細かに伝えた。そしてネットでの回答のことも。
「お祓いか~。そんなものに縁の無い生活だからなぁ。しかし、お前がそこまで深刻になっているってことは、よっぽどのことだなぁ。でも、もしかしたら、今日一日だけで終わるかも知れないことだろう?もう少し様子見てから行動しようぜ。」
「そうだなぁ。そうするワ。遅くに悪いな。」
お互い、電話を切った。考えてみれば、敏感になり過ぎだった。少年の姿を二回見ただけで、友人を巻き込んで大騒ぎするのは気が早すぎた。木村は少し反省し、もう就寝することにした。
ベッドに腰を掛け、辺りを見回した。いない。気配さえ、感じない。
「大丈夫だ。」
木村は自分に言い聞かせ、照明を消した。
布団をかけ、一旦寝に着いたが、またすぐに思い起こしたように起き上った。
(一応だ、一応。)
木村は、スマートフォンのアプリを開いた。
就寝時に寝言やいびきなど、物音を自動に録音するものだ。
木村はスマホをベッド横のサイド・テーブルに置き、改めて布団を掛けた。
(出るなよ…)
祈る思いで、目を閉じた。