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波長  作者: 塾童子
1/5

その1

 教師と呼ばれる者も、やはり人間。聖職ではありません。

(もう最終下校の6時半過ぎてんじゃん。早く終わろうよ。)


 木村は、そんなことを考えながら、先輩である和田の“アツい”言葉にうんざりしていた。


 なに、たかが中学生相手にあんなに熱くなってんだよ。これで、六時半の閉門を過ぎ、生活指導の担当に叱られるのは、こいつら部員となぜか、副顧問の俺。「なぜ生徒を六時半までに出さないんだね。」…「そ、それは、和田先生が…」とは、当然言えず、「すみません。思うように指導できなくて…」と毎日同じ言動の繰り返し。

これって、キレてもイイですか?…あ~ぁ、アホくさ。なんで教師になんかになっちまったのかなぁ。去年の今頃は、もう海で遊びまくってたよなぁ。あ~ぁ、大学生に戻りたい…。


 木村は、この中学校に四月に赴任したばかりの数学の新任教師。なぜか興味もないサッカー部の副顧問をやらされ、毎日毎日苦痛の日々を送っている。やっと、六月、赴任してやっと、二ヶ月・・・五月病は克服したが、いつ登校拒否になることやら。

その日も、サッカー部の部員同様に木村はうんざりしながら、和田の説教を聞いていた。元々集中して聞いていたわけではないので、視線は定まらず、心の中で「早く帰らせて~」と叫んでいた。

 フラストレーションをためながら、ふと運動場の端に目をやったときだ。思わず二度見してしまった。なぜかテニス・コートに一人の少年が立っているのだ。部員たちは教師と向かい合っているため、当然テニス・コートを背にした状態でいる。だから、その少年を見ることはできないが、和田は視界に入っていないのだろうか?木村は不審に思ったが、その場の雰囲気を壊すことは避けたいので、何も口には出さなかった。

 距離があるので、はっきりとは顔までは分からないが、自分の知っている生徒ではなさそうだ。と言っても、自分もまだ赴任して日が浅く、学校中の生徒全員のことなんて知っているわけはない。自分のクラスの生徒だって、ようやく顔と名前が一致するようになったところなのだ。

 正確ではないが、少年の表情に喜怒哀楽は感じられない…気がする。そして、確かにこちらをじっと見つめている…気がする。服装は、野球のユニホーム?ウチの弱小野球部は、とっくに帰宅したはずだが。なにせ距離もあるので雰囲気しかつかめない。ただ正確に分かるのは、このサッカー部の部員同様、直立不動の状態でいることだけだ。

(和田先生は、気づいていないのか?)


「木村先生、何かありますか?」

 説教が終わったようだ。唐突に、和田から、話を振られた。説教の内容なぞ全く頭に入っていない。毎日説教の締めに、部員向けに木村に話を振ってくるのだが、正直何もないし、どうでもイイ。「いや、今日は特にありません。」…木村のその言葉に、生徒たちも一瞬安堵の表情を浮かべたように見えた。キャプテンの終礼とともに部員たちは一目散に解散、部室に急いだ。木村はテニス・コートの方に目をやったが、すでにあの少年の姿は、もう無かった。


 グランドを背に校舎に戻りつつ、「ご苦労さん。」和田から、労いの言葉をもらった。

「ご苦労様でした。」と声を返し、気まずかったが、職員室に向かう足でためらいながらも聞いてみた。

「和田先生」

「うん?」

「さっき、終礼のとき、テニス・コートに野球部の生徒がいたんですけど、何かの居残りの子ですかね?」

「えっ?どこ?」和田は驚いた表情で後ろを振り向いた。

 木村は、「あの辺りですが」と、テニス・コートの方を指さした。

「イヤ、俺は全然気づかなかったなぁ。なんで野球部ってわかったの?」

「えぇ、ユニホームっぽいものを着てましたから。」

「不審者かも知れんゾ。あすこは女子テニスの場所だしなぁ。木村君、今日は俺が校門で生徒たちを帰してくるから、あの辺り巡回してきてよ。」

 和田は、部活動以外のときは、とても温厚である。部活が始まると、なぜあんなにも変貌するのであろうか?自分が中学生のころにも、部活が始まると性格が変わる先生はいたが、この人は、まるっきり別人格になる。木村は、部活動以外での和田を好んでいた。むしろ、話しかけやすい良き先輩だった。

 校門で生活指導から文句を言われずに済むと思うとホッとした。木村は、教諭は生徒の前では、お互いを○○先生と呼び合うが、生徒の目が無いと部下・後輩を○○君と呼ぶということを最近知った。

「わかりました。」

 不審者という言葉に対しても全く躊躇しなかった。どう見てもあの背格好は中学生だろうし、襲ってくるような気配も全く感じなかった。

 木村は、小走りでテニス・コートへ向かった。

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