〜 プライド 〜
春風の季節…
風が運ぶ
暖かな温もり…
出逢いの季節…
時に激しく
悪戯な風は
僕らにとって
皮肉にも
別れの季節になった…
一人…
部屋に帰ると
君の笑顔が
脳裏に浮かび
僕の瞳を
一瞬で曇らせてるよ…
あの夏の出逢いから
付き合い始めて
数ヶ月…
僕の携帯…
君で 埋め尽くされてた
着信履歴…
その着信すら
今は…鳴らない…
激しい雨風が
まるで
君と僕の
心の叫びみたいに思えたよ…
仕事から帰って
君からの電話を
久しぶりに
手に取ったよ…
声のトーンが
いつもと違う…
君の口から出た
言葉…
我慢の爆発…
『今…隣に誰が居るの…』
一人だよ…
『嘘…』
本当だよ…
『本当に…ひとり…
逢いたいよ…
今日も逢えないの…』
ごめん…
『いつも電話しても 出てくれな い…やっと…繋がったのに…』
仕事中は…出れないよ…
『逢いたい…』
ごめん…
今日は 身体が動かない…
『どうして…今…逢いたい…傍に 行きたい…』
ごめん…明日も仕事だし…寝る時間が欲しいから…行けない…
『やっぱり…傍に誰かいるんでし ょう …』
居ないよ…
『今すぐにそっちに行くから…』
無理…疲れてて…
今日はゆっくり寝たいから…
…沈黙…
会話が 続かない…
暫くして
君が小さな声で
泣きながら
僕に呟いた…
震えた声…
『もう…限界…秀…嫌い…もう… 逢わ…ない…』
………
『もう…嫌だよ…
傍に誰が居るんでしょう…』
………
連発する感情…
耳を塞ぎたくなった…
他になんて言われたのか
憶えてないや…
君の言葉に
僕は何も…
言い返せなかった…
言い訳すら
出来なかったよ…
信用してくれ…とは
言わないよ…
ただ…目頭が 熱くなった…
君は
電話口の向こう…
僕の涙すら
君は…気付かない…
『逢えないなら…別れよう…』
君からの…最後の言葉…
暫くして僕は
『良いよ…』っと 言って
静かに 電話を切った…
あの日から
僕の携帯は
静かになったよ…
僕らは
友人の知り合いの飲み会で知り合い…
君が 僕に話し掛けてきた…
『はじめまして』から
始まり…
ぎこちない会話から
次第に 心が開き
意気投合…
僕は…話の中で
仕事で忙しくて
彼女は…作らない…って
言ったんだ…
話の流れで
それでも君は
『私じゃ…駄目かな…』って…
照れながらね…
上目遣いのしぐさが
とても可愛かった…
僕は
『良いけど…
中々…会う時間がないよ…』
って…
言ったんだ…
時間を置いて 君は…
それでも良いよと…
不規則な仕事で
寝る時間さえ
少ない僕に
『それでも良いよ…』と…
『秀を支えたいの…』と…
僕は
君のその言葉だけでも
唯一の救いで支えだった…
毎日…送られてくる
何気ない
「行ってらっしゃい」
「お疲れ様」の
文字会話…
それだけでも
僕は 嬉しかった…
返信が遅かったり
返せなかったりもしたけど…
その文字言葉でも
嬉しかったんだよ…
君からの告白で
付き合い始めて…
周りからも
喜ばれ…
秀…浮気すんなよ…なんて
からかわれて…
ばか騒ぎして
笑いあって…
今は…もう…
巻き戻せない日々…
休みの時に
デートも 数回…
君は
『秀…疲れてるから
寝てなよ…
秀の傍で私も寝るから…』って
無邪気に僕の布団に
潜り込んできたり…
僕らの数少ない
小さな思い出…
本当は…
色んな場所とか
行きたかったはずだよね…
君に…
寂しい想いばかり…
ごめんね…
君の優しさに
僕は
甘えて居たのかな…
沢山…我慢…
してたんだね…
遊びの恋はね…
慣れてるよ…
愛情もない
色んな色華も
抱いてきたよ…
それでも君は
今までにない純粋で…
僕には 勿体ないくらいな人で…
傷…つけやしないかな…って
正直…付き合うのも躊躇った…
本気になるのが
こわかったから…
僕は恋に不器用だ…
始めはね…
良いかな…何て…
どうせまた…遊びだろう…
って
軽い気持ちだったけど…
時間が経つにつれて
君に触れ…
君となら…って
思い始めてた矢先だったから…
君の本音を知って…
言葉を叩きつけられて
胸が締め付けられて
物凄く心が痛かった…
僕は余り
好き…とか
言葉に表さないし
感情は出さないから…
君が
『私の事…好き…?
私の事…愛してる…?』と
何度も僕に求めたけど…
そんな事言ったら
僕は余計に言えないよ…
言えなくなるよ…
あの時の僕は…
簡単に
『愛してる…』とか
『好き…』なんて…言葉…
君に 言えなかったから…
君と別れてから 数日…
忘れようと
憂さ晴らしに
やけ酒呑んで…
限界まで起きて
眠たい身体を痛みつけ…
日が経つにつれて
ようやく
落ち着いてきて…
気持ちも少し
落ち着いてきたよ…
心も冷静になってきた…
今更だけど…
付き合って行くうちに
僕は 君に恋してたのかな…
嫌…違う…
愛していたのかも知れない…
『愛してる…』
君に言えなかった言葉…
その言葉一つ…
言えなくて
君を失ったけど…
『愛してる…』
そんな言葉すら
今はもう…
君には…届かない…
風の便りで
君はすぐに
新しい恋を
見つけたらしいから…
君が望んでいた言葉…
愛してる…は
もう…
君には言わないよ…
君が求めた愛の言葉は
僕ではない
違う相手へ…
これで 良かったんだよね…
悪戯な雨風は
僕らの心の叫びすら
何もなかったように
消し去り…
何もなかったように
穏やかな風にかわり
次の季節へ準備してる…
此から先も
『愛してる…』は
簡単には
言わないよ…
不器用な僕の
プライドだから…
この先も…
ずっと…
本気で愛してた人しか
言わない…
いいよね…
悪戯な風が
何もなかったように
僕らの叫びをさらって
次の 新しい恋の季節へと
導いてくれたよ…
心をさまし
次のステップへと
後押ししてくれたよ…
僕の小さなプライドは
まだ見ぬ恋へ…