第2節:『鉄屑の花』
休憩のため、私たちは灰色の荒野の真ん中で『鉄の柩』を止めました。機関を休ませるためです。ヴィオラさんのお手製とはいえ、道なき道を走る負担は大きく、前側からは陽炎のような熱気が立ち上っています。
私は外の空気を吸うため、重い扉を開けました。途端に、砂混じりの乾いた風が吹き込んできます。
「……うぇ、口の中がジャリジャリする」
操舵席から降りてきたヴェールさんが、不快そうに顔をしかめました。彼は水筒の水を一口含むと、乱暴に口をゆすぎ、地面に吐き捨てます。そして、手持ち無沙汰そうに懐から愛用の短剣を取り出しました。
刃渡りの長い、禍々しい装飾が施された「奪色の短剣」。けれど今の彼は、それを武器としてではなく、別の用途に使っていました。
カチ、カチと金属が噛み合う音がします。
彼は足元に落ちていた細い銅線や、車内で拾った余り物の大きいネジを拾い上げ、剣の背と親指の腹を使って器用に曲げていきます。その指先は、まるで奇術師のように滑らかでした。
「おにいちゃん、なにしているの?」
リアが興味津々といった様子で、彼の膝元を覗き込みます。ヴェールさんは「あ?」と面倒くさそうな声を上げましたが、手は止めません。
「手慰みだ。……暇つぶしに、ゴミをまとめてただけだ」
そう言いながら、彼は最後の一捻りを加え、その「ゴミ」をリアの方へ放りました。リアは慌ててそれを両手で受け止めます。
その瞬間、彼女の黄金色の瞳が、ぱあっと輝きました。
「わぁ……! おはなだ……!」
リアの掌の上にあったのは、鉄屑で作られた一輪の花でした。銅線を花びらに見立て、小さなナットを雌しべにし、鋭利な鉄片が葉を象っています。
素材はただの無骨な金属です。けれど、その歪な形は、どこか寂しげで、それでいて繊細な美しさを帯びていました。
「すごい! マシロおねえちゃん、みてみて! キラキラしてる!」
「……ええ。とても綺麗ね」
私は素直に頷きました。
ヴェールさんは、いつも斜に構えていて、口を開けば憎まれ口ばかり叩きます。けれど、その指先が生み出すものは、驚くほど優しい形をしていました。
「……ふん。ただの鉄屑だろ。捨てとけ」
ヴェールさんは気まずそうに鼻を鳴らし、短剣を鞘に納めました。顔を背けていますが、その耳がわずかに赤くなっているのを私は見逃しませんでした。
「ううん、すてない! これ、リアのたからものにする!」
リアは鉄屑の花を大切そうに胸に抱きしめ、ヴェールさんに向かって満面の笑みを向けました。
「ありがとう、ヴェールおにいちゃん!」
「……チッ。勝手にしろ」
ヴェールさんは帽子を目深にかぶり直し、そのまま車の影へと逃げるように歩いていってしまいました。
私は、リアが大事そうに撫でているその冷たい花を見つめました。鉄と油の匂いがする、無機質な花。けれど、そこには確かな「体温」が宿っていました。
(……温かい)
先ほどまでの悪夢の冷たさが、少しだけ溶けていくのを感じました。
アイゼンはいません。けれど、この狭くて息苦しい鉄の箱の中にも、小さな優しさは芽吹いている。その事実に、私は救われるような思いでした。




