第1節:ガラス越しの共犯者
そこは、世界で最も鮮やかで、最も冷たい場所だった。
天を衝く『色彩の塔』、その最上階。一切の塵も許されない静謐な空間で、燃料体はガラスの棺の中に浮いていた。
無数の管に繋がれ、淡い光液の中でまどろむ彼女は、塔を維持するための部品に過ぎない。
長い、長い年月だった。
あの「白い部屋」からここへ移されて、どれほどの時間が流れただろう。ガラス越しに与えられるのは、神経に直接流し込まれる機械的な知識と、外の世界を模した無機質な映像だけ。
薬液の中でゆっくりと作り替えられていく体は、いつの間にか、あの頃よりも随分と大きくなってしまった。
私の知性は、与えられたコードによって大人びていく。
けれど、私の心にとって――つい昨日まで、知らない彩を教えてくれた彼との時間は、今も色褪せない。不器用な指で絵本を開いてくれた、あの優しさは、全部嘘だったのだろうか。
彼女は目を開けた。ガラスの向こうに、白銀の巨像が立っていたからだ。
守護騎士白銀。直立不動で任務を遂行する彼は、呼吸する彫像のように微動だにしない。
(……ねえ、アルジェント)
音のない水の中で、彼女の唇が動く。ガラス越しに小さな掌を重ねる。
本来なら、ただの「監視対象」と「監視者」。けれど、そのガラス一枚を隔てた数センチだけが、この無機質な世界で唯一、体温の通った空間だった。
アルジェントは動かない。鉄仮面の下の表情は見えない。けれど、彼がその視線を決して彼女から逸らさないことを、彼女だけが知っていた。
言葉はいらない。互いが互いを「部品」ではなく「命」として認識している――その秘密の共犯関係だけが、今の彼女のすべてだった。




