第4節:代償の青、漂白の寒さ
「ヴェール、予備のバイパス・ケーブルを繋ぎなさい。……マシロ、あんたはその右手をアイゼンの核に直接重ねるのよ」
「はい」
言われるまま、私はアイゼンの開かれた胸部へと手を伸ばしました。むき出しになった定着核は、驚くほど冷たくて、時折パチリと小さな火花を散らしていました。私の指が、そのひび割れた黒い石に触れます。
「今からこの子の循環系を強引に再起動させるわ。でも、動力源が足りない。……あんたの彩で、この子の魂をこの器に繋ぎ止めなさい。できるわね?」
「……はい。わかっています。私にできることなら」
私はゆっくりと目を閉じました。自分の内側にある、温かくて重い「何か」を意識します。それは、私が私であるための記憶であり、命そのもの――彩そのもの。それを、この冷たい鉄の塊へと流し込む。
(……起きて。置いていかないで、アイゼン)
私の祈りに応えるように、右腕の痣がズキリと、心臓を鷲掴みにするような痛みを放ちました。
色彩回帰――。私の意志が点火した瞬間、世界が真っ青な閃光に包まれました。
「――っ!?」
熱い。いいえ、ひどく冷たいです。自分の体から、大切な体温がごっそりと吸い出されていくような感覚。指先からアイゼンの核へと、透き通るような青い輝きが流れ込んでいきます。それと引き換えに、私の視界からは色彩が失われ、どんどん灰色に染まっていきました。
「おい、顔色が真っ白だぞ。おい、ババア! これ、マシロが死ぬんじゃねぇのか!?」
ヴェールさんの焦った声が聞こえましたが、私は指を離しませんでした。もっと。もっと深いところまで。彼の魂が砂になってほどけてしまう前に、私の彩で塗りつぶさなければいけないんです。
「……ふん、加減を知らないバカね。数値が安定したわ、そこまでよ!」
ヴィオラさんが強引に私の腕を核から引き剥がしました。その瞬間、私は糸が切れた人形のように、冷たい床に膝をつきました。
「はぁ……っ、はぁ……」
全身が、氷水に浸されたようにガタガタと震えます。自分の手を見ると、透き通るような不自然な白さに変わっていました。髪の先からも色が抜け、まるで雪の結晶を纏ったかのように、脆くなってしまった気がします。
そして――。捲り上がった袖の先。手首を飲み込んでいた黒い痣が、まるで生き物のように蠢き、前腕をさらに数センチ、黒い結晶となって食い破っていました。
「おねえちゃん! おねえちゃん、だいじょうぶ……?」
リアが泣き出しそうな声で駆け寄ってきます。私の頬に触れる彼女の手が、驚くほど熱く感じられました。
「……大丈夫よ、リア。見て……アイゼンが……」
私が顔を上げると。作業台の上で、沈黙していた巨躯が、大きく震えました。プシュッ、と古い蒸気が排気口から吐き出され、止まっていた歯車が、重厚な金属音を立てて再び噛み合います。
鉄の仮面の奥で、断末魔のような赤色の火花が散り――直後、私の命の彩を吸い上げた深い「青」の光が、その空洞を支配しました。
「――」
言葉はありません。ただ、アイゼンはゆっくりと、震える大きな鉄の手を私の方へ伸ばしました。重厚な金属の軋み。その音は、私の命を削って彼に分け与えた、新しい鼓動の音でした。
悲しげに揺れる青い光。私は、白く透けてしまった自分の指で、彼の冷たい鉄の指先に触れました。
「……おはようございます、アイゼン。……また、一緒に歩けますね」
私が微笑むたび、手首に芽吹いた黒い結晶がパキリと音を立て、さらに私の肌を食い破っていきます。けれど、その痛みさえ、彼を繋ぎ止めている証明のようで、愛おしく感じられました。
視界の端で、ヴィオラさんが多層レンズを激しく回しながら、冷淡な声を漏らすのが聞こえました。
「……相変わらず、地獄みたいな『愛』だこと。……さあ、目覚めの一杯は終わりよ。半年後に砂になりたくないなら、さっさと準備を始めなさい」




