第2節:規格外のバグ
外の死の気配が去るのを待ち、私はようやく部屋の中を見渡しました。そこは、ガラクタの山でした。乱雑に積み上げられた歯車や基板、天井から吊るされた無数のケーブル。そして、部屋を満たすツンとした独特の匂い。花の匂いを無理やり薬液で煮詰めたような、不思議な紫色の煙です。
ヴィオラさんは、モニターの前から作業机へと戻っていました。小柄な身体には不釣り合いなほど大きな工具ベルトを腰に巻き、片目には幾重にも重なったレンズが微細に回転する「解析用モノクル」を装着しています。
彼女が椅子を回し、こちらを向いた瞬間――。モノクルの奥のレンズが、カチャカチャと音を立てて焦点を変えました。
「………………ッ!」
彼女が手に持っていたスパナが、床に落ちて高い音を立てました。ヴィオラさんは、椅子から飛び起きるようにして、真っ直ぐに私とリアへ歩み寄ってきました。
「な、なんだよババア。……今日は一段と目つきが悪いな」
ヴェールさんが眉をひそめて制止しようとしましたが、彼女はそれを無視して、私の顔を、そしてリアの瞳を、食い入るように見つめました。
「……規格外もいいところね。ヴェール、あんた、自分が何を拾ってきたか分かってるの?」
ヴィオラさんの手が、震えながら私の右腕――黒い結晶が這い上がる前腕へと伸びました。モノクルの奥のレンズが、高速で回転します。
「マシロ、と言ったかしら。あんた、その器……ただの人間じゃないわね」
彼女は、次にリアの瞳を覗き込みました。
「そして、そのちいさいの……。黄金の瞳の共鳴係数がありえないわ! 姉さんが、血眼になって探していた『二つ目の鍵』に近いかもね」
「塔が閉じた時に外へ取り残された血が、薄く、薄く伸びて――それが、ここで妙な形で跳ね返った。……」
ぶつぶつと呟く彼女を、ヴェールさんが忌々しげに見下ろしました。
「おい、独り言ならあっちで言えよ。俺たちは取引に来たんだ」
「まあ、血筋なんてどうでもいいわ。使えるものは使う。それが私の流儀よ」
ヴィオラさんは、私たちの背後に立つ、錆びついたアイゼンへ視線を移しました。
「……そして、銀。いいえ、今はそう呼ばれていないのかしら。……私の設計した子が、こんな、継ぎ接ぎだらけの『愛の成れの果て』に成り果てて」
ヴィオラさんはアイゼンの首元の青いリボンを指先で弾き、ククッと喉を鳴らしました。
「……面白いわ。設計図にもないバグが、三つも揃って私の工房に転がり込んでくるなんてね」
ヴィオラさんは地面に落ちたスパナを拾い上げると、壁の錆びついたスイッチを蹴り飛ばすように踏み抜きました。
ガガガガッ! と天井のレールが悲鳴を上げ、巨大な四本爪のクレーンが、獲物を狙う猛禽のようにアイゼンの頭上へと降りてきます。
「歓迎するわ、世界のバグたち。……まずはその、死にかけの鉄屑を吊り上げなさい。診断を始めてあげる」
クレーンがアイゼンの肩を掴み、泥にまみれたソリからその巨体を浮き上がらせました。宙吊りになったアイゼン。その無機質な鉄の身体が、ヴィオラの放つ紫煙の中で、まるで解剖を待つ検体のように虚しく揺れていました。




