第2節:違法ネオンの街
「着いたぜ。ここから先は、地獄とは無縁の『天国』だ」
「塔の目も、教団の歌も届かねぇ。だから――生き汚い奴らが生きてる」
彼がニヤリと笑い、私たちを見ました。むせ返る匂い。耳を刺す喧噪。そして……。
「……っ!? 」
私は思わず、両手で目を覆いました。――『色』の洪水が、そこにはあったのです。
「わあ……! あか! あお! きいろだぁ!」
私の足元で、リアが歓声を上げました。彼女の大きな瞳が、キラキラと輝いています。生まれてからずっと灰色の世界しか知らなかった彼女にとって、それは魔法のような光景だったに違いありません。
そこは、表の『褐色の街』のさらに下層に広がる、巨大な地下空洞でした。天井からは無数のパイプが垂れ下がり、そこかしこで『違法な色』を湛えたネオン管が、濁った色素液を明滅させながら、赤や青、毒々しい紫色の光を放っています。塔から横流しされた廃棄品、あるいは色素核を無理やり抽出した際の残りカスでしょうか。いかがわしい酒場や露店がひしめき合い、酔っ払いや商人が熱気の中で怒号を飛ばし合っています。
「……眩し、すぎる……」
私は、ズキリと痛む右腕を押さえました。手首を塗りつぶした黒い痣が、この過剰な色彩に反応して脈打っている気がします。命の終わりへと向かっている私の体には、この街の暴走するような『生気』はあまりに眩しすぎて、毒のようでした。
「ようこそ、俺の庭へ。裏の闇市だ」
彼は慣れた手つきでアイゼンの革紐を引き直すと、大股で光の中へと歩き出します。周囲の浮浪者や商人が、ソリに乗せられた巨大な鉄の怪物を見てざわつきましたが、ヴェールさんが鋭い眼光で彼らを射抜くと、誰もが舌打ちをして道を譲りました。常に『色漏症』で熱を奪われ、凍えている彼にとって、この汚物と欲望にまみれた街の熱気だけが、唯一、自分が生きていることを実感させる場所なのかもしれません。
「……アイゼン、大丈夫?」
私は、静止したままのアイゼンの冷たい指先にそっと触れます。何も答えない彼の沈黙だけが、この騒がしい街で唯一の安らぎでした。




