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魔女は直したい。 〜動かなくなった鉄塊(あなた)と明日を迎えるため、私は世界を塗り替える〜  作者: wattamen
4章:奪色者(だっしょくしゃ)と白の狂信

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第5節:白き掃除屋

「……ついてきな。教団の連中に見つからねぇ『裏ルート』を教えてやる」


 ヴェールさんは短剣を懐にしまうと、顎で枯れた谷底を指しました。

 私は彼と共に革紐を引き、岩肌を削る鈍い音を響かせながら、一歩ずつ谷底へ降りていきました。


 谷底は、岩肌が剥き出しになった迷路のような場所でした。風が遮られているせいか、空気が澱んでいます。数分ほど歩いた時でした。

 不意に、鼻をつく奇妙な匂いがしました。鉄錆とカビの匂いが充満するこの世界にはありえない、ツンとする薬品のような刺激臭。


「……何の匂いでしょう。これ」


「止まれ」


 私の問いには答えず、ヴェールさんが鋭い声で制止しました。彼の背中が、明らかに強張っています。彼は舌打ちをし、道端の岩陰を指差しました。


「……見ろ。一番会いたくねえ奴が近くにいやがる」


 恐る恐る、覗き込んだ私は――息を呑みました。

 そこに、人がいました。いいえ、人の形をした「何か」が転がっていました。


 それは、教団の兵士の死体でした。けれど、血が一滴も流れていないのです。着ている褐色の軍服も、肌も、髪の毛さえも、すべてが「真っ白」に脱色されていました。まるで、強力な漂白剤のプールに浸されたかのように、色という色が根こそぎ奪われ、ただの白い石膏像のようになって死んでいるのです。


「な、んですか……これ……」


「『白の掃除屋(クリーナー)』だ」


 ヴェールさんが、汚いものを見るような目で吐き捨てました。


(とう)の上層から降りてくる、潔癖症の騎士団長(マスター)サマだよ。あいつらは『汚れ』を許さない。教団だろうが暴徒だろうが、(とう)の規律を乱す奴は、こうして消毒(ブリーチ)して回るんだ」


 消毒(ブリーチ)。その言葉が、これほど恐ろしく響く光景はありませんでした。

 教団の兵士たちが叫ぶ「色を捧げよ」という熱狂的な狂気とは違う。ただ事務的に、ゴミを処理するように命を消し去る、冷徹な業務の痕跡。


(……嫌、だ)


 なぜだか分かりません。けれど、この真っ白な死体と、鼻を突く薬品の匂いに、私は言いようのない嫌悪感を覚えました。

 それは「死への恐怖」というよりも、もっと根源的な……自分が何かの「部品」として、冷たい机の上で洗われているような、薄ら寒い拒絶反応でした。


「……おい、急ぐぞ。死体からまだ消毒液の匂いがする。奴らは近くにいる」


 ヴェールさんが早足で歩き出しました。

 私は震える手で革紐を握り直しました。背後の荒野から、誰かが――真っ白な顔をした誰かが、音もなく私たちを見ているような気がして、背筋が(あわ)立ちました。


(……逃げなきゃ)


 教団の赤よりも、もっと恐ろしく無機質な「白」が迫っている。

 その恐怖が、私の足を無理やり前へと進ませました。


 第4章 「奪色者と白の狂信」 完

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