表と裏
舞台は何の変哲もない学校でデスゲームが行われた。テーマは〈ハイスクールレッドオーシャン〉
どうやら脱出タイプと戦闘タイプの融合らしい。
融合タイプは通常ゲームとは比にならない難易度である。
この業界では一日に千人以上が死ぬ。これは一日の総合死亡者数の四分の一に掃討する。この業界で死んだことがバレないように、念入りに偽造もするそうだ。
そんな影の業界の「裏」を担当することになった一人の少女がいた。
「おはよう桜!」
「おはよう。やけに元気だね。何かあったの?」
まるで待ってましたとばかりに遥香はにやりと笑った。
「実は……テストの点がついに全教科赤点回避したんですっ!」
「これはこれはおめでたい」
「なんて薄い反応なんだっ!もっと自分ごとのように喜べ!」
遥香はムスッとした顔で桜を見た。仕方ない。そんなに言うなら……
「あら〜!なんて素晴らしいのっ!ついに全教科赤点回避するなんて友達として誇らしいわよ〜」
まるでハイハイしかできなかった赤ちゃんが初めて立ったみたいに褒めちぎってやった。これで満足かっ!
「それはそれでちょっと気持ち悪いかも」
「なんでやねん!せっかく全力で褒めてやったのに!」
学校ではごく普通の会話だ。会話の内容をいちいち考えなくていいこっちはとても楽だ。
朝礼が始まってしまうので、遥香とは分かれてお互いの席についた。時刻は八時半。先生は来ない。いつもは来るのに、時間内に来ないとは、先生も珍しいことをするんだな。時間は過ぎていき、九時になった。流石におかしいだろ。少なくとも代理の先生が来てくれるのに、今日はそれもない。
その時は突然来た。
全員のスマホが鳴った。
画面は黒、その上に赤い文字が書かれた不気味な物へと変貌していた。
画面の上の赤い文字を読む。
只今からゲームを開始します。
規則一:リタイアはできません。
規則二:端末の指示に従ってください。
規則三:無事脱出できた方へ。このゲームは口外無用です。
桜は驚いていた。何も知らない一般人相手にゲームが開催されるなんて夢にも思わなかったからだ。こうなればやることは一つ。生き残ること。桜は端末が示している教室のある場所に向かった。あるものを取ると、 天井に向かって引き金を引いた。
ばんばんと教室中に強烈な音が響き渡る。
「なっなにっ!」
「やめてっ!」
教室は更にパニックになっていく。やがて、みんな桜の方に視線を移した。正しくは桜が持っている銃に。
「落ち着いた?」
「なにしてんの!桜っ!」
聞き馴染みのある声。我が友、遥香である。
「時間もどんぐらいあるかわかんないし、どれ系統のゲームかもわかんない。早くみんなを落ち着けなきゃ進めないでしょ?」
極めて冷静に淡々とした口調で桜は続ける。
「私は死にたくないから早く終わらせたいの」
「桜……何言って……」
「この画面に書いてあることを真に受けてるのか?冗談だろ?」
どっかの男子が口を挟んだ。確かにお遊び程度でこんなことをするなら少し悪質かもしれない。
だが、この文言は間違いなくデスゲームのテンプレートだ。
「少しこういうものには詳しくてね。どうする?サポートならするけど」
「信用ならない」
そう来るか。しょうがない。どうせゲームのことは口外しちゃいけないし、信用してもらえるなら言おうじゃないか。
「じゃあしょうがないね。全部言うよ。はじめまして。デスゲーム運営の教育機関所属。辻村葉月と申します」
「は?」
全員の目線は桜に一点集中していた。
「桜?何いってんの?ついに頭おかしくなったの?」
「いったことはすべて本当のことだよ。つまり、私はゲームの運営でありながら何故かゲームに巻き込まれたってこと」
「じゃあ、桜は本名が葉月ってこと?わかんないよ……怖いよ……」
無理もない。これは秘密事項だったし、誰にも漏らしてはいけない情報だったから。
「さて、少しは信用してもらえましたか?ちなみに、ゲームのことを生き残っても外部に漏らしてはいけない。当然私のことも。破ったら命はない」
みんなまだ状況を飲み込めていない様子。でもこのゲームはもたもたしてじゃ生き残れない。すぐにみんなに説明するしかない。端末に制限時間の表示はない。でも、まだ油断はできない。
「このゲームの基本から行こう」
「おいっ!勝手に話進めんなよ!」
またあの口を挟んできた男だ。これで最後にしよう。もうこれ以上こいつらに構ってられない。桜は銃を構えた。
「時間を奪わないでくれる?私だって死にたくはないの。多分ゲームを一番理解しているのは私だから、最大の人数で生き残れるように努力してるの。次邪魔したら打つよ」
男は中に怯えたのか肩を震わせた。
「で、話を戻すよ。ゲームの制限時間は今のところなし。ゲームのタイプは、今のところ脱出タイプと戦闘タイプの融合だと思う」
「待って……どういうこと?何その……タイプ?」
「わかった。一から説明する。ゲームは通常三つのタイプに分かれる。戦闘タイプ、これは簡単に言うとプレイヤー同士の殺し合い。脱出タイプ、罠を避けながら脱出すれば生き残れる。生存タイプ、運営からの刺客から逃げながら生存すればいい。たまに難易度を上げるために脱出タイプと戦闘タイプの融合のゲームもある。つまり今回のゲームは難易度がカンストしている」
みんなの顔が引きつる。話せば話すほど顔色が悪くなっていく。当然だ。これから誰かが死ぬかもしれないんだから。それでも事実を述べなくてはいけない。
「ちなみに融合タイプは通常三つのタイプより遥かに生存率が低い。通常の三つは生存率が六割ぐらい低くても五割。対して融合タイプは平気半数以下が死ぬ。歴代の最低生存率は5.3%。」
そして融合タイプにはゲーム界隈であるあるルールが存在する。
「とりあえず、端末のルールを見て」
ルールを一読する。
〈ハイスクールレッドオーシャン〉
学校の付近には学校から脱出するヒントが散りばめられています。
学校を脱出できればゲームクリアです。
学校を脱出できる組は先着三クラスです。
プレイヤー殺害数が上位の三クラスはゲームクリアとなります。
なお、ゲームクリアできなかったクラスは校舎の爆発により死亡します。
「もう無理だ……俺らここで死ぬんだ」
「お母さん……助けてっ!……」
誰もこの状況には納得できない。全員が紛れもないゲーム初心者だ。どんな手違いが起こったかはわからないが、私達の第一目標は生存だ。めそめそ泣いても何も始まらない。
「生き残るには二通りの方法がある。でも、本気で生きる確率を上げたいならプレイヤー殺害数でベスト三位に入るほうがいい」
「なんでよっ!人殺しなんて無理に決まってんじゃん!だったら脱出のヒントを探すほうが良くない?」
「だからこそだよ。みんな人殺しなんてできない。必然的にみんなの脱出のルートを選ぶ。競争率は激しくなるはず。全クラスが初心者。みんな心優しい人間でしょ?逆に言えば心を鬼にすれば勝てる。これは模範解答なんだ」
何よりゲームのタイトルが大きな鍵を握っている。通常、ゲームはタイトルが端末に表示される。
タイトルはゲームの特徴やヒントが顕著に出る。
今回の場合の「ハイスクールレッドオーシャン」はレッドオーシャンという単語から、殺し合いを連想しないわけには行かなかった。運営が殺し合いを望んでいると解釈するのが正解だと思ったわけだ。
もちろん他のプレイヤーを殺してベスト三位を目指すと言っても脱出のルートを諦めてはいない。こっちのほうが早くゲームクリアできる可能性もある。作戦としては、きっと戦闘ルート中心、同時並行でヒントを集めることになる。
「桜、私は戦闘ルートでいいです。生き残れるなら、何だってやってやる」
真っ先に声がしたのは遥香だった。続いてみんなも不安の顔もちらほら見えるが、異論はないらしい。
「わかった。じゃあそれで行く。ただし、脱出ルートも決して捨ててない。ヒントも集めるけどあくまでプレイヤー殺害に重点を置くこと」
方向性は決まった。ただし、最も重要な課題が一つ。この課題を乗り越えないと作戦は失敗する。
だから桜は鬼になることにした。自分だけはいくら嫌われてもいい。生き残るために、やるだけ。
「みんな他クラスに知り合いは居る?いるなら連れてきて。そうだな…十人くらいなら足りると思う」
みんなは少し不思議がっている。でも、桜の指示に従ってくれた。教室には他クラス総勢十三人の生徒の姿があった。
「こんにちは……」
「うぃーす」
少し茶色掛かった艶のある黒髪、制服はきちっとしていて如何にも優等生と呼ばれるような女の子と彼女とは全く対象的な男の子がいる。男の子は明るい金髪に、ネクタイを緩めて制服を着崩していた。
「すみませんね急に、こんな事があったもんで、他のクラスではどうなっているのか情報共有したいなと思いまして」
「そう……ですよね……」
「俺はこれただのいたずらだと思ってるっす。だってそうでしょ?こんなん誰かにハッキングされてるに決まってるっすよ」
まあそんなもんだよな。こんな異常事態が起きて混乱して泣くタイプか、最後まで変ないたずらだと思ってしまうタイプに分かれるだろう。でも、そろそろ情報を引き出さないといけない。
みんなに人を呼ばせる前、こんな会話をした。
「方向性も決まったし、ルールを決めよう」
「ルールですか?」
「このクラスは一つのチームである。つまり運命共同体ってわけ、負ければ全員死亡だし、勝てば生き残れる。仲間割れなんてしたら目も当てられないことになる。今のうちにルールを決める。ルールに従うだけなら余計な考え事もしなくていいし、余計な感情もいらない」
「そうですねっ!そうしましょう!」
「じゃあ基本的には私が中心に決めるね。まず、私の指示には基本的に従ってほしい。一番ゲームをわかってるし、人が死ぬところも何度も見てきた。誰よりも冷静で行動はできると思う」
異論はないようだ。次のルールを決めよう。ぶっちゃけこれが一番重要だ。
「次、私は非常に合理的な考え方をする。良く言えば効率的、悪く言えば冷酷。そして、多分ないけど、チームにとって足手まといに感じる人がいた場合、最悪見捨てる。そこは納得してほしい。最後に、私が死んだ場合、誰がリーダーになってもいいように常に考えること。私の言動行動を常に見て、覚えて、まるでそこに桜がいるかのように振る舞ってほしい。それが一番生き残れるから。以上」
全員が全員きっと納得できてない。そんなすぐ人を見捨てるなんて。そんなに冷酷になれるのかと、きっと自分を良くない目で見る人もいると思う。でも、こうするしかない。みんなは覚悟が決まった顔で桜を見上げた。じゃあ、いよいよ次の作戦へと移行する時が来た。
「異論はないみたいだね。あと、他のクラスの人がこのクラスに来たときは私語禁止。基本的に私が話すから。そしてどんな事が起きても止めない、喋らない。もちろん私がいいよって言ったら話してもいい。守れそう?」
みんなはなんで?と不満そうにするも、決定的に反対というわけでもなかったので採用。何気にいちばん大切なことだ。
「次の作戦はーー」
「で、お名前何ていうんですか?」
金髪くんが聞いてきたので素直に答える。
「有紀桜です。ちょうど皆さんに聞きたいんですが、脱出のヒントってもう探してたりしますか?」
「いや……まだ見つかっていませんが、探してはいます。本当にいたずらじゃなかったら洒落にならないので」
「そうですか」
他の人に聞いても探してはいるが見つからないらしい。ちょっと切り込んでみよう。
「ゲームクリアって二つの方法がありますよね?プレイヤー殺害でゲームクリアしようとは思わないんですか?」
「いやいや無理ですよ。人なんて殺したことないし、殺す勇気もないですよ」
「俺もっす!こんなヤンキーに見えても流石に人は殺せないっす」
予想通りだ。みんな脱出ルートを目指して完全に人を殺さないつもりだ。じゃあ勝ち目はある。
もう情報もこれ以上出ないだろうし、終わりにしよう。
桜は最初に銃を見つけた場所に入っていたナイフを取り出し、十三名の生徒に襲いかかった。
一人目は金髪くん。足に思いっきり蹴りを入れ、とりあえずパンチでボコボコにし、足と腕の関節を激しく損傷させ、動けなくする。
二人目の優等生ちゃんは足と腕を折っておいた。同じ要領で残り十一人も動けなくした。
一方その頃、我がクラスのメンバーはというと、あまりにも惨たらしい十三人の姿に絶句し、目を背けていた。これでは困るので総仕上げを行う。
「みんな、何やってんの?あ、話していいよ」
「何なんだよこれ……」
無理はない。現在地面に横たわっているのは我がクラスの知り合いもしくは友達だからだ。
「何って慣れてもらうためだよ」
「いた……い」
「そりゃ痛いよ、骨折ったんだから。これからみんなには練習をしてもらう。人を殺す練習」
「そんな……できないよ。こんなこと……」
「できないって何?方向性は決めた。なのにこんなんじゃ目標どころじゃないでしょ?自分が生き残りたければ誰かが死ななきゃいけないの。じゃあやるよ。この金髪くんは誰が連れてきた?」
一人の男の子が手を上げた。金髪くんほどではないが、なんとなくチャラい雰囲気をまとっている。
「名前は?」
「佐藤光樹です……」
「じゃあ五秒あげるから金髪くんをこのナイフで刺して。心臓とかの急所は最も望ましい。目標は三回で行こうか。刺せなかったら自分が死ぬ覚悟もして」
カウントダウンを始める
「五、四、三……」
ナイフが刺さった生々しい音と金髪くんの悲鳴が聞こえた。見ると腕にナイフの刺し傷があった。
「やるね〜光樹くん。次も行けそう?今回は腕だから次は太ももとかどう?」
金髪くん本日二回目の悲鳴が上がった。太ももにも大きな傷ができていた。
あとはもう、ただの作業のように進んでいった。連れてきた人に刺させて、その繰り返し。誰も連れてきていない人ももちろんいる。そういう人には好きな方を選んで刺させた。最初の五秒カウントダウンも三回目で大体の人が指示を待たずに刺せるようになった。そう訓練した結果。みんな殺人に抵抗はなくなっていった。
全員が回った頃には七人が絶命。六人がギリギリ生死をさまよってる。みんなが頑張っているとき、出血死で死んでしまった人はすぐに端にどけ、生きている人間を常に傷つけさせた。お陰でいい感じになっている。さてこの六人もそろそろ殺らないと……
「あの……いいですか?」
「どうした?」
「あの六人私に殺らせてもらえませんか?」
「理由を聞いても?」
「耐性がつけば生き残る確率も上がるので……」
これはこれは素晴らしいなと素直に思ってしまった。こんなに勉強熱心だとは。もちろん異論はない。
「みんなも大丈夫かな?」
みんなも疲労困憊だ。沈黙は同意とみなす。
「いいよ。刺すなら心臓が一番。楽に逝かせてやれ」
辻村葉月。又の名を有紀桜と呼ぶ。
葉月は孤児だった。
何の理由かはわからないが、両親が葉月を産んだあと、すぐに道端においていった。
物語上ではきっと、心優しい人が孤児を拾って幸せに暮らしたのさとなるだろう。
でも、それは葉月ではなかった。
葉月はゲームの運営関係者に拾われた。
葉月はゲームの運営教育機関に送られ、トレーニングを受けた。ゲームの運営に当たっての座学、戦闘技術、その他のノウハウ。
ゲームの運営をする職員はゲームのコントロールや企画、罠の配置、時にはゲーム内でプレイヤーを殺すこともある。そのため、高い知能と戦闘技術を学んだ教育機関出身の運営職員は、ゲームの核心になると言ってもいい。
中でも葉月は圧倒的だった。教育機関内で葉月を超える生徒はいなかった。常に成績トップにいて、感情すら見せないときが多々ある。そんな葉月はしてみたい事があった。
「お疲れ様です、第二長官」
広々とした書斎らしき場所に座っていたのは、如何にも仕事ができそうな美しい女性だった。体のラインは綺麗で、黒く長い髪をまとっている。とても格好良く、他人には厳しい。そう思っている時期が葉月にもあった。
「葉月じゃないか!お疲れ。授業はどうだ?成績は他の者より抜きん出ているそうじゃないか」
「もったいないお言葉です」
「なあに、固くなるな。いつもの呼び方はどうした?」
「あ!ごめんなさい!いつもここに来ると仕事モードに入っちゃって。お疲れ様です。お義母さん」
「こうでなくっちゃな!うちの葉月は世界一だ!」
この見た目に反して性格が全く伴っていない女性は、葉月を拾ったあの職員だった。
名前は辻村奈知。運営の第二長官という役職についている。
運営は上から長官、第二長官、一般職員、職員補佐という役職がある。
つまり葉月のお義母さんは上から二番目の偉い人である。ちなみに葉月はまだ役員補佐という役職だ。
「お義母さん、一つお願いしてもいいですか?」
「お前がお願いとは珍しいじゃないか。何だ?言ってみろ」
「はい。普通の学校に通ってみたいんです」
「ほう、理由は?」
「ただもう一つの世界が見てみたいんです」
「組織の業務は疎かにはできない。お前らはまだ職員の卵だからな、雑用も授業も大変だと思う。それでもやるか?」
「はい!やらせてください!」
「じゃあ許可する!ただし本業には手を抜かないように!それ用の戸籍も作っておく。連絡を待ってくれ」
「はい!ありがとう、お義母さん!」
桜は一つ見誤ってしまった。
融合タイプはあらゆるゲームの中で最高難易度である。
よって、イレギュラーが発生することはざらにある。
初めての小説投稿でしたがいかがだったでしょうか?
かなり珍しいジャンルの投稿ですが、丹精込めて書かせていただきました。
次回の投稿はいつになるかわかりませんが気長にお待ち下さい。




