第三部・第9話 0.01の扱い方
――内部管理ログ抜粋
件名:生徒ID K-071(影野 蒼汰)
能力評価ログ更新について
発信:能力運用管理課/学園統括室
閲覧制限:レベル3
【概要】
文化祭準備中に発生した軽微事故に関連し、
生徒ID K-071の能力実効値に一時的な変動を確認。
当該変動値:0.01(暫定)
【詳細】
対象能力:
好感度増幅(対人依存型)
通常状態:
実効値 ほぼゼロ
(測定誤差範囲内で推移)
事故発生時の行動:
・能力未発動
・防護行動あり
・自己判断による前進
当該行動後、
端末ログにて以下の数値変動を確認。
実効値:
0.00 → 0.01
【分析】
・数値変動は一時的
・再現性なし
・明確な好感度上昇イベントは確認できず
結論:
外部要因(偶発的対人評価)による誤差の可能性が高い
【議論記録(抜粋)】
「0.01……?」
「誤差だろ」
「誤差だが、
“ゼロではない”という事実は残る」
「意味を持たせる数値ではない」
「だが、
完全なゼロとして扱うのも、
情報として不正確だ」
沈黙、数秒。
「記録は残す」
「ただし、
評価・配置・訓練方針には反映しない」
「現行の“安全配置”を維持」
【決定事項】
・当該数値は参考記録として保存
・LFB再計算は行わない
・追加検証は不要
・対象生徒への通知なし
理由:
「期待を持たせるコストの方が高い」
【備考】
本能力は、
理論上の最大値が極端に高い反面、
発動条件が社会的要因に依存。
短期的な戦力化は不可能。
中長期的観測対象としては、
優先度:低
【追記】
なお、同日付で以下の生徒についても
評価保留状態を維持。
生徒ID K-0XX(時間干渉・外部依存)
生徒ID K-001(装備化・特殊)
共通判断:
「数値化した瞬間に、
運用側が責任を負うことになる」
【最終判断】
0.01は、
存在しなかったものとして扱う。
記録には残すが、
意味は与えない。
それが、
最も事故率の低い選択である。
ログ終了。
影野蒼汰は、
この判断を知らない。
知らないまま、
今日も同じ席に座り、
同じように準備を手伝う。
彼の能力が、
いつか本当に動くかどうかは、
管理側にとって重要ではない。
重要なのは、
今は使わないという一点だけだ。
0.01は、
切り捨てられた。
だが、
完全に消されたわけではない。
それが、
後にどれほど厄介な数字になるかを、
この時点で知る者はいなかった。




