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第三部・第6話 文化祭準備開始

文化祭をやる、と聞いた時。

神崎紫陽は、正直なところ耳を疑った。


「……文化祭?」


「はい。文化祭です」


壇上の教官は、

何の冗談でもない顔でそう言った。


「戦争中に?」


誰かが口にした疑問は、

おそらく全員が思っていたことだ。


「だからです」


教官は、

淡々と答える。


「能力を、

 戦争以外の目的で使わせる必要がある」


その一言で、

講堂の空気が変わった。


説明は、簡潔だった。


・模擬戦は禁止

・破壊系能力の出力制限

・来場者は学園関係者のみ

・事故が起きた場合、即中止


つまり、

安全に失敗させる場。


「能力は、

 人を殺すためだけにあるわけじゃない」


教官は、

あえてそう言った。


だが、

その言葉を本気で信じている者が

どれほどいるかは、

分からなかった。


クラスごとに、

出し物を決めることになった。


観測・保留クラスの教室は、

少し気まずい空気で満ちている。


前線候補がいない。

派手な火力もない。

誰もが、

「じゃあ何をやる?」という顔をしていた。


「……喫茶店、とか?」


誰かが、

遠慮がちに言う。


「能力、関係なくね?」


「関係なくていいんじゃない?」


そのやり取りに、

紫陽は小さく笑った。


「関係ないことをやるのが、

 目的なんだろ」


結局、

観測・保留クラスは

**“能力補助型展示”**という曖昧な企画に落ち着いた。


・能力の仕組みを説明する展示

・安全な実演

・触れても問題ない範囲での体験


前線には出せない能力を、

“見せる形”に変える。


それは、

管理側にとっても都合がいい。


影野蒼汰は、

教室の隅で

黙々と資料をまとめていた。


「影野くん、

 それ何?」


誰かが声をかける。


「……能力の説明用パネル」


「え、

 使わないの?」


「……使えないから」


影野は、

それ以上何も言わなかった。


だが、

誰かに話しかけられたという事実が、

ほんの少しだけ、

端末の数値を揺らしたことに

彼自身は気づいていない。


神崎紬は、

展示案を静かに眺めていた。


彼女の能力は、

見せるには向いていない。


時間を借りる。

時間を扱う。


どこまで説明しても、

核心は言えない。


「……私は、

 受付でもやろうかな」


そう言った時、

教室の空気が一瞬止まった。


「え?」


「能力、

 使わなくていいなら」


紬は、

笑った。


それは、

戦いの前に見せていた表情とは違う。


紫陽は、

その笑顔を見て、

胸の奥が少しだけ痛んだ。


Aクラスの準備風景は、

遠くからでも派手だった。


物質生成で装飾を作り、

ランナーが資材を運び、

RPGアバターが演出を組む。


能力が、

「便利なもの」として

使われている光景。


戦場では見られない光だ。


「……なんか、

 普通の学校みたいだな」


紫陽が呟くと、

紬は小さく頷いた。


「一日だけ、

 そうでいられたらいいですね」


夕方。


校内放送が、

準備開始を告げる。


文化祭まで、

あと二週間。


その間、

能力は壊さないために使われ、

人は殺さないために集まる。


紫陽は、

その違和感を噛み締めていた。


——戦争は終わっていない。


だが、

今日だけは。


能力が、

人を楽しませるために

使われている。


それは、

あまりにも脆く、

だからこそ守りたい光景だった。


「……この日常、

 壊される前に覚えとこう」


紫陽は、

そう心の中で呟いた。


文化祭準備。

それは息抜きであり、

同時に——


次に壊れるものの、

リストアップでもあった。

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