第三部・第5話 安全すぎる配置
クラス分けの結果は、
翌朝にはすでに確定していた。
校舎中央の掲示板。
そこに並ぶのは、
クラス名と生徒IDだけの無機質な一覧だ。
Aクラス。
Bクラス。
支援特化。
観測・保留。
誰がどこに入ったのかは、
名前を探さなくても、
大体の空気で分かる。
「……まあ、そうなるよな」
神崎紫陽は、
自分のIDを確認して、
小さく息を吐いた。
配属:観測・保留クラス
最前線ではない。
だが、切られてもいない。
使うには危険で、
だが無視するには実績がある。
そんな存在の、
いかにも中途半端な置き場所だった。
Aクラスは、
校舎の一番奥。
訓練施設に最も近い位置に配置されている。
掲示板の前では、
速水陸が仲間に囲まれていた。
「走るだけでいいなら、
いくらでもやるぞ」
冗談めかして言いながらも、
目は真剣だ。
彼は前線候補。
能力の性質上、
使われる場所も役割も明確だった。
少し離れた場所では、
相馬ユウが、
操作説明書のような端末画面を眺めている。
配属:前線固定支援
「……やっぱり動くなってことか」
苦笑しながらも、
納得はしているようだった。
紫陽は、
視線を横にずらす。
そこには、
Bクラスの一覧がある。
火力や汎用性が高く、
だが致命的な欠点を持つ者たち。
その中に、
八乙女いろはの名前はなかった。
代わりに、
別紙扱いの小さな掲示がある。
別枠管理
個別観測対象
「……隔離、か」
言葉にすると強いが、
実態はそれに近い。
点数が壊れた存在は、
クラスという枠組みに入れられない。
使い道がないわけじゃない。
むしろ逆だ。
使い方を間違えられない。
「兄」
隣から、
小さな声がする。
神崎紬だった。
彼女の端末には、
クラス名が表示されていない。
配属:未定
理由:評価保留
「……私、
どこにもいないみたいですね」
冗談めかした口調。
だが、
その言葉の選び方が、
どこか慎重すぎた。
「安全すぎる場所だな」
紫陽は、
率直にそう言った。
「前線に出さない。
評価もしない。
でも、手元には置く」
「使う気はあるけど、
責任は取りたくない配置だ」
紬は、
少しだけ目を伏せる。
「……やっぱり」
納得と、
諦めが混じった声だった。
その少し後ろで、
影野蒼汰は、
掲示板を見上げていた。
彼の配属先は、
はっきり書かれている。
配属:保留クラス(後方)
前線にも、
支援にも、
観測にも属さない。
完全に、
安全圏だ。
「……まあ、
そうだよな」
誰にも聞こえない声で、
影野は呟く。
安全。
それは、
守られているという意味でもある。
だが同時に、
期待されていないという意味でもあった。
教官の一人が、
全体に向けて説明を始める。
「今回のクラス分けは、
能力の強弱ではありません」
「事故率の低さを最優先しています」
事故。
その言葉に、
紫陽は眉をひそめた。
事故とは、
能力暴走。
誤作動。
想定外。
つまり——
「前線で
“やらかす可能性”のあるやつは、
後ろに下げたってことですか」
誰かが、
率直に聞いた。
教官は、
否定しなかった。
「そうです」
はっきりと。
「今は、
勝つための配置ではない」
「負けないための配置です」
講堂に、
微妙な沈黙が落ちる。
それは正しい。
だが、
あまりにも現実的だった。
紫陽は、
自分の端末を見つめる。
観測・保留。
安全すぎる配置。
自分も、
妹も、
影野も。
危険だから前に出さない。
それはつまり、
——いざという時、
最後まで温存されるということでもある。
「……嫌な配置だな」
紫陽は、
そう呟いた。
誰に向けた言葉でもない。
戦争は、
始まっていない。
だが、
そのための駒は、
すでに並べられている。
しかも、
一番危険な駒ほど、
後ろに置かれている。
この学園は、
安全だった。
少なくとも、
今のところは。
だが紫陽は、
はっきりと感じていた。
——この配置は、
長くは続かない。
安全すぎる場所は、
必ず最初に壊れる。




