第三部・第3話 点数が壊れる
評価会議は、再開されていた。
第2話で示されたLFB方式は、
生徒たちの間に、はっきりとした線を引いた。
採用。
条件付き採用。
保留。
そして、事実上の切り捨て。
数値は残酷だが、
少なくとも公平ではある。
――少なくとも、
測れるものに対しては。
「次。再評価対象」
壇上の声が告げる。
スクリーンに映し出されたのは、
一人の少女だった。
小さな体。
背中には、どう見ても場違いなランドセル。
生徒ID:K-001
氏名:八乙女 いろは
能力分類:装備化(特殊)
ざわ、と空気が揺れる。
「年齢は?」
「小学生相当」
「……本気か?」
だが、
次の画面が切り替わった瞬間、
そんな疑問は吹き飛んだ。
能力概要:
・対象の同意、または無力化を条件に
対象を“装備”として使用可能
・装備元の能力・魔法を使用可能
・重ね装備可能
・装備数に理論上限界なし
沈黙。
誰も、すぐに口を開けなかった。
「……最大値は?」
分析担当が、慎重に尋ねる。
「算出を試みました」
そう前置きしてから、
オペレーターが答える。
「失敗しています」
スクリーンに、
見慣れない表示が現れた。
最大値:算出不能
欠点:算出不能
LFB:——
「理由は?」
「装備対象によって、
能力構成が毎回変わるため」
「欠点の定義が固定できません」
会議室に、
重たい空気が落ちた。
LFB方式は、
最大値と欠点が“固定”であることを前提としている。
だが、この少女は違う。
「……単独評価は不可能だな」
誰かが、ぽつりと言った。
「相性次第で、
SSSにも、
即戦力外にもなる」
「危険すぎる」
「いや、
危険というより——」
別の声が続く。
「扱い切れない」
その言葉が、
一番正確だった。
八乙女いろは本人は、
壇上を見上げているだけだった。
表情は、ほとんど変わらない。
評価されているのが自分だと、
理解しているのかどうかも分からない。
「結論を出そう」
議長役が告げる。
「この生徒は、
点数化しない」
一瞬、
室内が静まり返る。
「評価方式の前提を破壊する能力だ。
数値を与えた瞬間に、
評価そのものが嘘になる」
「よって——」
判定:別枠管理
評価方式:個別観測
配属:未定
点数が、
存在しない。
それは、
低評価よりも異質な扱いだった。
その間、
神崎紬は一言も発していなかった。
評価表の中に、
彼女の名前は出てこない。
スクリーンの端に、
小さく表示されるだけだ。
生徒ID:K-0XX
能力分類:時間干渉(外部依存)
判定:保留
理由欄は、
空白のままだ。
誰も、
紬について説明を求めない。
誰も、
点数を出そうとしない。
それが、
逆に異常だった。
八乙女いろはが、
「測れない存在」として
会議を止めたのなら。
神崎紬は、
最初から測る対象にされていない。
紫陽は、
その違和感に気づいていた。
妹が、
評価の外側に置かれている。
切られていない。
だが、
選ばれてもいない。
「……兄」
紬が、
小さく呟く。
声は、
誰にも届かない。
「私、
まだ——
何も、決めてないから」
紫陽は、
何も答えなかった。
評価会議は続く。
数字は、次々と人を分けていく。
だが、
その中央で。
一人は、
点数を壊し。
もう一人は、
点数の外に立ったまま、
沈黙していた。
世界はまだ、
その意味を理解していない。
だが、
理解した時には、
もう遅い。




