第三部・第2話 評価会議 ― LFB方式
評価会議は、講堂で行われた。
壇上に並ぶのは、
教官でも、軍人でもない。
スーツ姿の男女と、無機質な端末。
彼らは自己紹介をしなかった。
必要がないからだ。
生徒たちは席に座らされ、
名前順でも、年齢順でもなく、
ただ番号で呼ばれる。
神崎紫陽の前にある端末にも、
自分の名前は表示されていない。
生徒ID:K-021
それだけだ。
「これより、第一次評価を行う」
淡々とした声が、講堂に響く。
「採用方式は LFB方式。
能力評価における、
現時点で最も事故率の低い算出法です」
スクリーンに、式が映し出される。
LFB = 最大値 −(欠点 × 0.5)
ざわり、と小さなざわめきが起きた。
「能力の“強さ”ではなく、
使いやすさと安定性を重視します」
「最大値がいくら高くとも、
欠点が大きければ評価は下がる」
「逆に、
最大値が低くとも、
欠点が少なければ採用圏内です」
誰かが、手を挙げた。
「……それって、
才能があっても、
性格や相性が悪ければ切られるってことですか」
質問した生徒を、
壇上の一人が一瞬だけ見た。
「はい」
即答だった。
「ここは学校ですが、
目的は教育ではありません」
言い切りだった。
「戦力の最適化です」
その言葉で、
講堂の空気が一段冷える。
最初に呼ばれたのは、
物質生成能力者だった。
「生徒ID:K-034」
桐谷恒一が立ち上がる。
彼の能力は、
どんな物質でも生成できる。
構造を理解していれば、
規模に応じて再現可能。
だが。
「制限が多いな」
「生体不可。
超精密構造は設計理解が必須。
スタミナ依存」
数値が表示される。
最大値:SS
欠点:A
LFB:A+
「採用」
淡々とした判定。
桐谷は安堵したように、
しかしどこか疲れた顔で座った。
次は、ランナー。
速水陸。
走った時間に応じてポイントを得て、
能力無効化や常時回復を発動できる。
「単体性能は高い」
「だが、
対象が自分限定」
「連携前提だな」
最大値:A
欠点:B
LFB:A-
「採用」
速水は、
ほっとしたように拳を握った。
RPGアバター能力者、相馬ユウ。
「理論上は非常に強力」
「だが、操作遅延が致命的」
「集中力依存も重い」
最大値:SS
欠点:SS
LFB:C
「……採用はする」
少しだけ間が空いた。
「ただし、
前線固定配置限定」
相馬は苦笑した。
「ですよね」
そして。
ランドセルの少女が呼ばれる。
「生徒ID:K-001」
八乙女いろは。
年齢欄に、
一瞬だけ視線が集まる。
能力説明が表示された瞬間、
講堂の空気が変わった。
「……待て」
誰かが、思わず声を漏らす。
「相手の同意、
または無力化した相手を
装備として使用可能?」
「装備元の能力・魔法を使用可能。
重ね装備可能……?」
数値が、跳ね上がる。
最大値:測定不能
欠点:測定不能
一瞬、沈黙。
「……保留」
「詳細検証が必要」
「これは、
単独評価できないタイプだ」
会議は、
初めて止まった。
最後の方で、
一人の名前が流れた。
「生徒ID:K-071」
影野蒼汰。
能力:好感度増幅。
「理論倍率?」
「上限不明」
「現在値は?」
「……ほぼゼロ」
画面に表示される。
最大値:不明
欠点:極大
現在実効値:なし
LFB:算出不能(最低評価)
「……次」
誰も、
影野の顔を見なかった。
否定も、嘲笑もない。
ただ、
処理されただけだった。
神崎紫陽の番が来る。
彼の能力欄は、
他と少し違っていた。
幸運。
悪運。
天運。
そして、保険運。
「……安定性が、
ほぼ存在しない」
「だが、
戦果は実在している」
「再現性がないのが問題だな」
数値が表示される。
最大値:SSS
欠点:SS
LFB:B+
「……微妙だな」
誰かが言う。
だが、
別の一人が言葉を重ねた。
「だからこそ、
切れない」
「異世界側が嫌うタイプだ」
一拍の後。
「採用」
理由の説明はなかった。
評価会議は、
二時間で終わった。
名前は、
点数に変わった。
才能は、
数式に押し込められた。
生徒たちは理解する。
ここでは、
頑張りも、想いも、
評価されない。
評価されるのは、
使えるかどうかだけだ。
そしてその基準は、
あまりにも冷たく、
正確だった。
神崎紫陽は、
席を立ちながら思う。
——この学園は、
人を育てる場所じゃない。
世界を納得させるための、
数字を作る場所だ。
次に切られるのが、
誰かはまだ分からない。
だが、
その日は、
確実に近づいている。




