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第二部・第42話 その一瞬だけが、戦場だった

時間が、

戻る前触れは

ほとんど分からなかった。


空気が揺れる。

音が、戻る準備を始める。

世界が、次のフレームへ進もうとする。


その刹那を、

二人は同時に踏み込んだ。


拳が出る。

能力ではない。

狙いもない。


ただ、

止まっていた距離を

ゼロにするための動作だった。


衝撃が、

骨に直接返ってくる。


殴った感触。

殴られた痛み。


時間が流れている証拠が、

身体にだけ残る。


「……っ!」


声が漏れる。

どちらのものか、分からない。


世界は動いている。

だが、

動いているのは、この半径数メートルだけだ。


青年が、

半歩下がる。


主人公は、

追わない。


殴り合いに

距離を詰める理屈はない。


止まるか。

動くか。


それだけだ。


次の瞬間、

再び停止。


世界が凍る。


拳は途中で固まり、

呼吸は胸の奥で止まる。


「……短いな」


青年が言う。


声は、

停止中でも届く。


「学習してるからな」


主人公は答える。


止まる長さ。

動く長さ。


互いに、

相手の“癖”を測っている。


停止が、解ける。


同時に、

二人は動いた。


今度は、

殴り合わない。


組み合う。


腕を絡め、

体重を預け、

相手のバランスを奪う。


力は、

互角ではない。


青年の方が、

体の使い方が上手い。


だが、

主人公は倒れない。


「……能力を使えよ」


青年が、

歯を食いしばりながら言う。


「使えない場所に、

 連れてきたのはお前だ」


言葉と同時に、

時間が戻る。


世界が流れ出す。


その瞬間、

主人公は

頭突きを叩き込んだ。


技術じゃない。

勢いだけの一撃。


青年の視界が、

一瞬揺れる。


それで十分だった。


次の停止。


世界が、

再び固まる。


「……はは」


青年が笑う。


「殴り合いって、

 こんなにうるさかったか」


主人公は、

肩で息をする。


回復は、

起きていない。


疲労だけが、

確実に溜まっていく。


「……なあ」


青年が言う。


「君、

 楽しいだろ」


主人公は、

即答しない。


時間が、

再び動く。


今度は、

青年が踏み込む。


拳が、

主人公の頬を捉える。


痛みが走る。

視界が白くなる。


それでも、

主人公は倒れない。


「……楽しくはない」


殴られながら、

そう答える。


「ただ」


「これが、一番まっとうだ」


停止。


青年は、

目を閉じた。


「……そうだな」


「能力も、

 理由も、

 正義も」


「ここじゃ、

 全部邪魔だ」


時間が、

動く。


二人は、

同時に殴った。


拳と拳が、

ぶつかる。


衝撃で、

両方の腕が痺れる。


倒れたのは、

青年だった。


完全な停止が、

訪れる。


世界は凍る。


だが、

主人公は

まだ動けている。


青年は、

仰向けで

天を見ていた。


「……なあ」


「俺、

 本当は」


言葉が、

途中で切れる。


時間が、

戻る。


青年の体が、

わずかに跳ねる。


呼吸が、

荒い。


主人公は、

拳を下ろした。


「……もう、

 十分だ」


青年は、

笑った。


「……止めてくれて、

 ありがとう」


その言葉と同時に、

時間は

完全に流れ出した。


音が戻る。

風が吹く。

人々が動き出す。


誰も、

この数秒間を

覚えていない。


だが、

地面に残った

血と汗だけが、

確かに戦いがあったことを示していた。


主人公は、

その場に立ち尽くす。


能力は、

使っていない。


運も、

奇跡も、

関係ない。


ただ、

時間が動く一瞬を

殴り合った。


それだけで、

十分だった。


第二部は、

決着の後処理へ進む。


次は――

止まっていた世界が、どう責任を取るか。

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