第二部・第41話 止まる条件、残るもの
三度目の停止は、
合図もなく始まった。
警報は鳴らない。
予兆もない。
ただ、
世界が“次へ進まなかった”。
空気が、
重くなる。
音が、
途中で途切れる。
主人公は、
膝を軽く曲げ、
重心を落とした。
(……また、
来た)
前よりも、
停止が短い。
だが、
密度が違う。
青年――時間を止める者は、
前回よりも近い位置に立っていた。
距離は、
三歩分ほど。
「……近づいたな」
主人公が言う。
「学習した」
青年は、
簡単に答える。
その言葉で、
一つ目の条件が
確定する。
停止は、
任意発動ではない。
発動には、
“理由”がある。
青年は、
主人公の動きを
じっと観察していた。
「君が、
来ると分かったから」
つまり。
脅威が存在するとき、
時間は止まる。
止めるためではない。
選別するためだ。
主人公は、
一歩踏み出す。
足は動く。
だが、
床の感触が
どこか曖昧だ。
拳を振る。
届かない。
距離は縮んだ。
だが、
干渉できない。
「……やっぱり、
物は動かせないか」
青年は、
否定も肯定もしない。
だが、
主人公は確信する。
停止中、
物理的干渉は成立しない。
殴れない。
押せない。
掴めない。
動けるのは、
身体だけ。
次に、
主人公は
呼吸を整えようとする。
肺は動く。
心臓も打つ。
だが、
疲労が
回復しない。
「……回復も、
起きない」
青年が、
小さく頷く。
「止まってるからな」
つまり。
停止中、
変化は起きない。
回復も。
劣化も。
成長も。
時間を必要とする現象は、
すべて凍結される。
主人公は、
次に能力を試す。
意識を、
幸運へ向ける。
何も、
起きない。
悪運も。
天運も。
どれも、
反応しない。
「……能力は」
「時間の流れに
依存してる」
青年が、
淡々と言う。
「止まってる場所では、
君の能力は
“未処理”のままだ」
つまり。
能力発動には、
時間が必要。
停止中は、
条件判定すら
走らない。
主人公は、
歯を噛みしめる。
ここで、
ようやく全体像が
見える。
・時間停止は、
脅威を感知して発動
・停止中は、
物理干渉が成立しない
・変化は起きない
・能力は発動しない
・回復も、
消耗もない
だが。
「……それでも」
主人公は、
青年を見る。
「俺は、
動けてる」
青年は、
少しだけ
目を細めた。
「そこが、
一番厄介だ」
停止には、
対象外が存在する。
理由は、
一つではない。
完全な条件も、
青年自身は
説明できない。
だが、
共通点はある。
「君は」
青年が言う。
「止められる前提で
動いていない」
「止まる世界を、
最初から
織り込んでる」
それは、
褒め言葉ではない。
「……だから」
「止めきれない」
主人公は、
息を吐く。
「なら」
「俺がやることは、
決まってる」
能力は、
使えない。
幸運も、
悪運も、
天運も。
ここでは、
意味を持たない。
だから。
時間が動く瞬間だけを、
狙う。
停止が解ける、
その刹那。
世界が、
再び流れ始める
その一点。
そこに、
すべてを賭ける。
青年は、
その覚悟を
理解した。
「……いいな」
声は、
羨望に近い。
「君は、
止まっても
止まらない」
主人公は、
答えない。
答える必要が、
ないからだ。
時間が、
わずかに
揺れ始める。
次は、
停止の終わり際。
能力も、
言葉も、
通じない戦いが始まる。
世界は、
もう一度
止まろうとしていた。




