第二部・第40話 届かないまま、分かってしまう
世界は、
二度目の停止を迎えていた。
一度目と違うのは、
主人公がそれを予期していたことだ。
風が消え、
音が消え、
人々の動きが途中で固定される。
だが今回は、
驚きも焦りもなかった。
「……来ると思ってた」
主人公は、
止まった街の中でそう言った。
返事は、
少し遅れて返ってくる。
「そう言われると、
少し腹が立つな」
時間停止能力者――
青年は、数メートル先に立っていた。
前回よりも、
距離が近い。
だが、
近づいた実感はない。
「君は、
怖くないのか」
青年が尋ねる。
問いの形をしているが、
本気で答えを求めてはいない。
「怖いよ」
主人公は即答した。
「ただ、
今さら増えないだけだ」
青年は、
一瞬だけ目を伏せる。
「……やっぱり、
君は外だな」
「外?」
「止まった世界の中で、
理由を探していない」
青年はゆっくりと言葉を選ぶ。
「ほとんどの人間は、
意味を探す。
誰が悪いのか、
何が原因か、
どうすれば正しかったのか」
「でも君は、
“起きてしまった”という
結果しか見ていない」
主人公は、
肩をすくめた。
「意味を探す時間が、
もう残ってないだけだ」
二人の間に、
沈黙が落ちる。
止まった世界では、
沈黙すら音を持たない。
「……俺はな」
青年が、
独白の続きを始める。
「誰かと話したかったわけじゃない。
説得したかったわけでも、
理解してほしかったわけでもない」
「ただ」
「止まった世界に、
“自分以外”がいるのを
確認したかった」
主人公は、
一歩踏み出す。
足は動く。
距離も、確かに縮む。
それでも、
見えない境界線が残る。
「……それで?」
青年は、
少し困ったように笑った。
「それで、
分かってしまった」
「君は、
俺を止めに来たんだろ」
「止める、というより」
主人公は言い直す。
「終わらせに来た」
その言葉に、
青年は驚かなかった。
むしろ、
安心したように息を吐く。
「……やっぱりな」
「止める、だとさ」
青年は苦笑する。
「止めるなんて、
そんな優しい言葉を使うのは、
俺くらいだ」
「君は違う。
君は、
“ここまで来たものを
片付けに来た”顔をしている」
主人公は、
否定しない。
「俺を殺す?」
問いは、
淡々としていた。
「分からない」
主人公は正直に答える。
「少なくとも、
このままにはしない」
青年は、
しばらく主人公を見つめる。
止まった世界の中で、
二人だけが呼吸している。
「……それでいい」
青年は、
静かに言った。
「君に、
正しさは求めてない」
「ただ」
「止められなかった世界に、
“終わり”をくれるなら」
「それは、
悪くない」
主人公は、
拳を握る。
能力は、
使えない。
幸運も、
悪運も、
天運も。
ここでは、
意味を持たない。
「……なあ」
青年が、
最後に問いかける。
「君は、
止まった世界を
どう思う?」
主人公は、
周囲を見渡す。
凍った人々。
止まった空。
途中で切り取られた日常。
「……楽だとは思う」
正直な答えだった。
「でも」
「楽な世界に、
人は生きられない」
青年は、
小さく笑った。
「それを言われると、
何も返せないな」
時間が、
動き出す兆しがする。
空気が、
わずかに震える。
「次は」
青年が言う。
「話じゃ、
済まない」
「ああ」
主人公は頷く。
二人の視線が、
一瞬だけ重なる。
そこに、
敵意も友情もない。
あるのは、
「ここまで来た」という
共有だけ。
時間が、
再び動き出す。
音が戻り、
世界が流れを取り戻す。
人々は、
何事もなかったように
動き出す。
ただ、
主人公と青年だけが、
次を知っている。
会話は、
成立しなかった。
だが。
理解だけは、
完全に成立してしまった。
第二部は、
決着へ向かう。




