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第二部・第34話 時間が、抜け落ちた

最初の報告は、

事故として処理された。


通勤時間帯。

人通りの多い交差点。

信号は正常。

車両も停止していた。


倒れていたのは、

中年の男性だった。


外傷なし。

争った形跡なし。

周囲に、

血はない。


ただ、

死んでいた。


「……心疾患?」


救急隊員が、

そう判断しかけた。


だが。


「……おかしい」


到着した医師が、

眉をひそめる。


「表情が……」


安らかでも、

苦悶でもない。


“途中”で、

止まっている顔。


時計は、

正常に動いている。


だが、

現場にいた全員が

同じ感覚を覚えた。


「……今、

 倒れました?」


「いや、

 さっきから

 ああだった」


「いつから?」


誰も、

答えられない。


監視カメラが、

確認される。


映像は、

問題なく再生された。


男性は、

歩いている。


次のフレーム。


倒れている。


間に、

何もない。


つまずきも。

呻きも。

時間の流れも。


「……編集、

 されてないな」


「フレームは、

 連続してる」


「……じゃあ」


誰かが、

言葉を失う。


“その間”が、

 存在していない。


数分後。


別の場所。


倉庫内で、

警備員が

椅子に座ったまま

発見された。


机に、

手を置いた姿勢。


目は、

開いたまま。


やはり、

外傷なし。


だが。


死後硬直が、

 “途中”で止まっている。


時間が、

合わない。


「……死亡推定時刻が、

 出せない」


「正確には」


「“死亡までの過程”が、

 存在しない」


管理側に、

二件目の報告が届く。


同時刻ではない。

場所も違う。

関係もない。


だが、

共通点は一つ。


“誰も、

 死ぬ瞬間を

 見ていない”。


会議は、

即座に招集された。


だが、

議題は立たない。


原因不明。

能力不明。

予兆なし。


雪も降っていない。

炎も燃えていない。

影も、

増えていない。


「……不可視でもない」


「接触痕も、

 ない」


誰かが、

小さく言う。


「……じゃあ、

 どうやって」


その問いに、

答えは出なかった。


同時刻。


主人公は、

報告書を

黙って読んでいた。


二件。

どちらも、

“説明ができない”。


ページを、

閉じる。


「……来たな」


声は、

低い。


「被害抑制が、

 成立しない領域だ」


ここには、

誘導もない。

回避もない。

時間稼ぎもない。


起きたら、

終わっている。


妹は、

別室で

同じ報告を聞いていた。


説明は、

なかった。


だが、

分かる。


(……触れていない)


(見えてもいない)


(それでも、

 死んでいる)


ニュースは、

慎重な言葉を選ぶ。


「原因不明の急死が──」


「関連性は、

 確認されていません」


だが。


街の空気は、

変わった。


炎の時のような

恐怖ではない。


雪の時のような

警戒でもない。


“いつ終わるか

 分からない”という、

 沈黙の恐怖。


誰も、

走らない。


誰も、

叫ばない。


ただ、

立ち止まる。


時計を見る。


自分が、

今ここにいる理由を

確認するように。


管理側の端末に、

新しい分類が

自動で追加された。


【現象分類:未定義】

【対策:存在せず】

【再発可能性:否定不可】


その下に、

小さな注釈。


【時間的連続性:欠損】


主人公は、

その一行を

じっと見つめる。


「……能力ですら、

 説明にならない」


つまり。


これは、

 “能力バトル”の外側だ。


この瞬間。


世界は、

一つの前提を失った。


何かが起きる前に、

 人は備えられる

という前提を。


時間は、

流れている。


だが。


抜け落ちる瞬間が

 存在することを、

 世界は知ってしまった。


第二部は、

完全な終盤へ入る。

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