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第二部・第31話 影で、殺させない

対策は、

完成形ではなかった。


むしろ、

即席だった。


「……理屈は単純です」


現場指揮所で、

簡易ブリーフィングが行われる。


「見えないなら、

 見なくていい」


「影だけを、

 見る」


床に設置されたのは、

高照度の投光器。

臨時に組まれた、

複数角度からの照明。


「影は、

 完全には消えません」


「だから」


「“増えた影”だけを、

 検知する」


能力者も、

兵士も、

一般職員も。


全員が、

同じ指示を受ける。


「影が増えたら、

 そこから距離を取れ」


「触るな。

 追うな。

 囲うな」


「ただ、

 人を下げろ」


これは、

捕まえる作戦ではない。


生き残る作戦だ。


最初の適用は、

夜の商業施設だった。


避難が終わりきっていない。

だが、

人の流れは制御できる。


照明が、

一斉に点く。


天井。

壁。

床。


影が、

くっきりと伸びる。


「……影、

 異常なし」


通信が、

短く飛ぶ。


人が、

移動する。


そのとき。


「……待て」


一人の警備員が、

声を低くする。


「……床、

 見ろ」


影が、

一つ多い。


柱の影。

照明器具の影。


その隣に。


人型に近い、

 輪郭の影。


「……いる」


誰も、

声を荒げない。


指示通りだ。


「全員、

 三メートル後退」


人が、

静かに下がる。


走らない。

叫ばない。


ただ、

影から距離を取る。


その瞬間。


影が、

一歩分、

ずれる。


「……追ってる」


「いや」


指揮官が、

即座に否定する。


「人の方が、

 動いている」


影は、

動いていない。


動いているのは、

人の配置だ。


影が、

中心になるように

円が広がる。


「……触れさせるな」


三秒。


四秒。


五秒。


何も、

起きない。


影が、

歪む。


一瞬だけ、

濃さが変わる。


次の瞬間。


影が、

 消えた。


「……離脱確認」


誰かが、

深く息を吐く。


負傷者、

ゼロ。


行方不明、

ゼロ。


たった一度の接触も、

起きていない。


現場に、

小さなざわめきが走る。


「……本当に、

 逃げたぞ」


「影だけで、

 下がっただけなのに」


「……効いてる」


同時刻。


別の現場でも、

同じ報告が上がる。


【影検知】

【人員後退】

【接触未発生】


管理側は、

その数字を

慎重に見つめていた。


「……被害、

 止まってます」


「完全じゃないが」


「“触れられない状況”は

 作れている」


完璧ではない。


光源が足りない場所。

昼間。

複雑な地形。


影が使えない場面は、

いくらでもある。


それでも。


「……これで」


「パレントは、

 “安全に触れる”ことが

 できなくなった」


それは、

大きな意味を持つ。


パレントは、

確実性のある

接触を武器にしていた。


その確実性が、

削られた。


同時刻。


主人公は、

現場映像を

黙って見ていた。


誰も、

倒していない。


誰も、

捕まえていない。


それでも。


「……死なせなかった」


それだけで、

十分だった。


妹は、

報告を聞き、

静かに頷く。


(……戦ってないのに)


(前に、

 進んでる)


影は、

完全な武器ではない。


だが。


見えない恐怖を、

 “対処可能な現象”に

 落とした。


パレントは、

まだいる。


だが、

触れられない。


それは、

彼にとって

初めての失敗だった。


第二部は、

次の局面へ進む。

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