第二部・第27話 炎が届かなくなる
最初の違和感は、
炎帝自身が気づいた。
炎は、
いつも通り放った。
空中に留まり、
狙いを定め、
連射する。
ビルの屋上。
交差点。
避難路のはずの大通り。
だが。
燃えなかった。
正確には、
燃えた。
建物は溶け、
アスファルトは赤く割れ、
炎は十分な仕事をした。
それなのに。
人がいない。
「……?」
炎帝は、
もう一度、
視線を巡らせる。
いるはずだった。
さっきまで、
確かに人の熱があった。
逃げ遅れた集団。
立ち止まった車列。
避難が滞った区域。
そこに向けて、
炎を撃った。
だが、
燃えたのは“空白”だった。
「……おかしいな」
声は、
苛立ちを含んでいない。
ただの事実確認だ。
炎帝は、
もう一度撃つ。
今度は、
少し広めに。
連射。
連射。
連射。
火の網が、
区域を覆う。
それでも。
人影が、ない。
「……移動、
速すぎないか?」
誰に言うでもなく、
呟く。
炎帝は、
戦場を“見ている”。
雪花のように、
範囲を選ばないわけではない。
人の反応。
逃げ方。
混乱の速度。
それを見て、
火力を調整する。
だが今は。
「……反応が、
薄い」
火を撃っても、
散らばらない。
燃やしても、
慌てない。
まるで。
自分が、
“見られている前提”で
人が動いている。
「……誘導、
されてる?」
一瞬、
その考えが浮かぶ。
すぐに、
否定する。
「いや」
「そんな、
間に合うはずがない」
炎帝は、
速い。
連射ができる。
判断が早い。
止まらない。
それでも。
次の瞬間、
通信が入る。
「……避難完了率、
想定より高い」
別の声。
「炎帝の射線から、
人が消えています」
炎帝は、
舌打ちした。
「……“止められて”ない」
「……でも、
“効いてない”」
その違いが、
じわじわと腹に落ちる。
撃てば、
燃える。
だが。
燃やしても、
判断が進まない。
交渉は、
前に進んでいない。
「……なるほど」
炎帝は、
ようやく理解する。
「これは、
止められてない戦いだ」
「意味を、
削られている」
炎帝は、
火力を上げる。
今までより、
広く。
強く。
速く。
だが。
次の瞬間、
その先にも人はいない。
「……」
初めて、
苛立ちが浮かぶ。
「……話が、
違うな」
彼は、
“判断を迫る役”として
来ている。
だが、
判断されない。
炎帝は、
空中で静止する。
そして。
撃つのを、
一瞬止めた。
それだけで、
現場の温度が変わる。
「……撤退?」
誰かが、
そう呟く。
だが、
炎帝は戻らない。
ただ、
見ている。
人が、
どう動くか。
自分が、
どう扱われているか。
「……勇者」
炎帝は、
低く呟く。
「地球は、
学習が早い」
「……雪花の時より、
ずっと」
このままでは、
自分は“燃やすだけの存在”になる。
交渉のカードとして、
価値が下がる。
「……なら」
炎帝は、
静かに判断する。
「次は、
見えない手番だ」
その瞬間。
炎は、
一気に収束した。
撤退ではない。
様子見だ。
現場に残ったのは、
焼けた街と。
死者ゼロという、
異常な結果。
同時刻。
主人公は、
報告を受け取る。
「……被害、
抑え切ったか」
拳を、
ゆっくり解く。
「……成功だ」
だが。
「成功したからこそ、
次が来る」
炎帝は、
“意味を失い始めた”。
それは。
より悪いカードが
切られる合図だった。
透明な圧力が、
すでに動き出している。
第二部は、
次の恐怖へ進む。




