第二部・第25話 炎は、待ってくれない
異常は、
雪のように予兆を伴っては来なかった。
気温低下も、
前触れもない。
ただ、
空が赤く染まった。
「……熱源反応、急上昇!」
観測室に警報が走る。
「地点は──都市内部だ!」
物流地区ではない。
軍事施設でもない。
人が住んでいる場所だった。
映像が切り替わる。
ビルの谷間。
住宅と商業施設が混在する区域。
夜の灯りが、
一瞬で掻き消える。
爆発。
いや、
爆発ではない。
燃焼が、同時多発的に“始まった”。
「……火が、
連続して出ている」
「連射だ!」
炎は、
落ちてくるのではなく、
撃ち込まれている。
建物の壁が、
溶ける。
道路が、
赤く割れる。
「人的被害は!?」
「……確認中」
答えが遅れる。
それだけで、
嫌な予感は確定した。
画面の端に、
人影が映る。
空中。
赤い光を纏ったまま、
静止している。
白ではない。
雪でもない。
熱そのものが、形を持っている。
「……固有魔法使い」
誰かが、
掠れた声で言った。
「識別名は?」
「……炎帝」
その名が、
会議室に落ちる。
次の瞬間。
炎が、
三方向に分かれた。
連射。
狙いは、
一点ではない。
逃げ道。
集合地点。
避難ルート。
「……意図的に、
人を散らしてる」
「雪花とは、
やり方が違う」
誰もが、
理解した。
これは、
警告じゃない。
判断を迫る攻撃だ。
「止めろ!」
迎撃命令が出る。
能力者が、
前に出る。
防御系。
遮断系。
冷却系。
一瞬、
炎が弱まる。
だが。
次の射線が、
即座に重なる。
「……速い」
「溜めがない」
「撃ち続けられる!」
防御が、
追いつかない。
建物の一つが、
崩れた。
映像が、
揺れる。
「……要救助者、
多数!」
ついに、
数字が出た。
【負傷者:発生】
静まり返る。
雪花では、
出なかった数字。
「……これが」
「炎帝」
誰かが、
歯噛みする。
「止めないと、
人が死ぬ」
「でも」
「止めたら、
交渉は壊れる」
誰も、
答えを出せない。
炎帝は、
撤退しない。
境界線を引かない。
燃やせる場所を、
燃やせるだけ燃やす。
それが、
彼の役割だ。
「……勇者が」
「焦っている」
その評価は、
一致していた。
内戦の期限。
世界の限界。
地球の反応速度。
すべてが、
計測されている。
同時刻。
別の場所で、
主人公は映像を見ていた。
赤い炎。
崩れる建物。
負傷者の数字。
拳が、
強く握られる。
「……来たな」
止められる。
だが。
止めれば、
次はもっと酷くなる。
「……それでも」
「今回は、
“何もしない”は
選べない」
炎帝は、
構図を壊しに来ている。
交渉が続くかどうかを、
“人の命”で測っている。
戦わない戦い方は、
ここで試される。
間に合うか。
壊されるか。
選択の猶予は、
炎の速度で削られていく。
第二部は、
臨界点へ突入した。




