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第二部・第18話 勇者は、家族の話を避けなかった

直接対面は、

戦場でも会議室でもなかった。


人のいない、

静かな建物の一室。


警備は外に下げられ、

記録装置も最低限。


――勇者エレギオンは、

最初からそこにいた。


「……来てくれて、ありがとうございます」


頭を下げる動作は、

形式的ではない。


礼儀として、

身に染みついている。


「時間がないんだろ」


主人公は、

立ったまま言った。


「ええ」


エレギオンは、

正直に認める。


「あなたが、

 “守らない選択肢”を

 現実にする前に」


その言葉に、

主人公は眉をひそめる。


「……妹の話から入る気か」


「はい」


迷いはない。


「避ける意味がないからです」


椅子に座るよう、

促される。


主人公は、

一瞬迷ってから腰を下ろした。


「あなたの妹は、

 交渉材料になり得る」


最初から、

核心を突いてくる。


「同時に」


「彼女が、

 自分から距離を取ろうとしていることも

 理解しています」


主人公は、

何も言わない。


否定できないからだ。


「だから」


エレギオンは、

声を落とす。


「私は、

 あなたに“選ばせる”ために来ました」


「……選択肢は?」


「三つです」


指を一本立てる。


「一つ。

 降伏を受け入れる」


「あなたと妹を含めた

 特異点を、

 ステイラ管理下に置く」


「安全は保証します」


二本目。


「二つ。

 距離を完成させる」


「妹が、

 あなたから完全に離れる」


「交渉点は消えます」


「その代わり」


「我々は、

 より合理的な“介入”に移行します」


三本目。


「三つ」


一瞬、

間が空いた。


「あなたが、

 私を納得させる」


主人公は、

小さく息を吐く。


「……で」


「その前に聞かせろ」


視線を、

真っ直ぐ向ける。


「なぜ、

 ステイラは地球を攻めた」


エレギオンは、

一瞬だけ目を伏せた。


「……それは」


「侵略のためではありません」


「……だろうな」


主人公は、

冷静だった。


「内戦だ」


エレギオンは、

驚かなかった。


「ええ」


「正確には、

 **内戦の“寸前”**でした」


言葉を、

選びながら続ける。


「ステイラには、

 固有魔法使いが五人います」


「彼らは、

 それぞれが国家戦力」


「同時に」


「互いに、

 相容れない思想を持っていた」


資料も、

映像も出さない。


必要ない。


「放っておけば、

 世界は割れていた」


「魔法使い同士の派閥争い」


「勇者として、

 止める方法は二つありました」


「一つは、

 誰かを殺すこと」


主人公の視線が、

鋭くなる。


「もう一つは」


「全員に、

 同じ敵を与えること」


沈黙。


「……地球か」


「はい」


エレギオンは、

はっきりと言った。


「“仲間同士で争うくらいなら、

 皆で外を攻めよう”」


「そう、

 誘導しました」


「勇者の言葉で」


主人公は、

思わず笑った。


「最低だな」


「ええ」


否定しない。


「ですが」


「その選択で、

 内戦は止まりました」


「世界は、

 まだ割れていない」


「……代わりに」


主人公が、

続ける。


「地球が割れかけた」


「はい」


エレギオンは、

視線を逸らさない。


「それでも、

 私は後悔していません」


「内戦は、

 必ず全滅を生みます」


「外への戦争は、

 止められる可能性がある」


「あなたが、

 それを証明した」


主人公は、

静かに理解した。


この男は、

侵略者ではない。


調停者ですらない。

 “犠牲の配分を決める者”だ。


「……で」


「その内戦の原因が、

 固有魔法使い同士の争いなら」


「次は?」


エレギオンは、

少しだけ苦笑した。


「次は、

 あなたです」


「あなたという“特異点”を

 どう扱うかで」


「ステイラ内部の均衡も、

 再び揺れます」


主人公は、

深く息を吸う。


「……俺は」


「世界を救う気は、

 もうない」


「家族を、

 守りたいだけだ」


エレギオンは、

その言葉を否定しない。


「だからこそ」


「あなたは、

 交渉に値します」


立ち上がる。


「三日ではなく」


「一日、延ばしましょう」


「その代わり」


「あなたの答えは、

 必ず聞きます」


姿が、

消える。


一人残された主人公は、

しばらく動けなかった。


妹を守るために、

世界を相手にする。


世界を守るために、

妹から離れる。


どちらも、

正しい。


どちらも、

地獄だ。


勇者は、

 戦わずに来た。


だが、

これ以上ないほど

重い戦いを置いていった。

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