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第二部・第14話 使われる側の理解

最初は、

ただの違和感だった。


ニュースの言い回し。

学校での大人たちの距離感。

帰り道で感じる、視線の数。


どれも単体では、

気にするほどのものじゃない。


けれど、

積み重なる。


朝のホームルームで、

担任がやけに慎重に言葉を選ぶ。

保健室の先生が、

必要以上に体調を確認する。


「何かあったら、すぐ言ってね」

その“何か”の範囲が、

妙に広い。


(……見られてる)


そう思った瞬間、

胸の奥が静かに冷えた。


放課後、

通学路を歩きながら、

意識的に能力を使わずにみる。


信号は、

それでも安全に切り替わる。

車は、

それでも早めに止まる。


(……私がやらなくても、

 成立する)


その事実が、

少しだけ嬉しくて、

同時に不安だった。


家に帰ると、

兄がいた。


いつもより、

少しだけ静かだ。


「……おかえり」


「ただいま」


視線が合う。


その一瞬で、

分かる。


兄は、何かを知っている。


夕食の準備中、

包丁を動かしながら考える。


最近の出来事。

能力効率の低下。

管理側の動き。


そして、

勇者。


名前は、

聞いていない。


けれど、

“外から来た視線”があるのは分かる。


(……交渉)


その言葉が、

自然に浮かんだことに、

自分で驚いた。


交渉は、

対等な立場で行われるものだ。


でも、

世界と世界の間では違う。


対等でないものが、

材料になる。


(……特異点)


兄のことだ。


人類悪の時、

世界を止めた人。


(……じゃあ、

 私は?)


思考が、

一段深くなる。


私は、

世界を止めたわけじゃない。


でも、

世界を“整えている”。


事故を減らし、

被害を抑え、

選択を早めている。


(……それって)


世界にとって、

 使いやすい。


気づいた瞬間、

呼吸が少し浅くなる。


(……もし)


(私が、

 ここにいることで)


(兄が、

 選ばされるなら)


それは、

能力の話じゃない。


立場の話だ。


夕食中、

兄が何気なく聞く。


「学校、どうだ?」


「……普通」


答えは、

嘘じゃない。


でも、

言葉の裏で、

一つの理解が固まっていく。


(……私がいる限り)


(兄は、

 交渉材料を持っている)


逆も、

同じだ。


(……兄が、

 私を守ろうとする限り)


(私は、

 交渉材料になる)


それは、

あまりにも綺麗な因果だった。


夜、

自室に戻る。


ノートを開き、

能力のページを見る。


強化条件。

最適解。

効率。


その横に、

新しい項目を書く。


外部評価


そして、

その下に。


交渉価値


ペンが、

一瞬止まる。


(……やっぱり、

 そうだ)


誰も、

そう言っていない。


管理側も、

勇者も、

兄も。


でも、

状況がそう言っている。


ベッドに腰掛け、

天井を見る。


(……強さを選んだ結果)


(私は、

 使える存在になった)


それは、

誇りでもあり、

呪いでもある。


(……兄は)


(それを、

 どうするつもりだろう)


胸の奥に、

小さな痛みが走る。


兄は、

きっと守ろうとする。


だからこそ。


(……私が、

 選ばなきゃいけない)


強さか。

距離か。

家族か。


答えは、

まだ出ていない。


でも、

一つだけ確かなことがある。


私はもう、

 “何も知らない妹”ではない。


世界と家族の間に、

自分が立っていることを、

理解してしまった。


第二部は、

避けられない選択の直前まで来た。

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