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第二部・第9話 視線を外すという案

その案は、

突然浮かんだわけではなかった。


前兆は、

もう何日も前からあった。


夜。

自室の机に向かい、

ノートを開く。


ページの半分は、

能力に関する記録で埋まっている。


発動条件。

補正の方向。

反応速度の数値。


数字は、

正直だ。


「……下がってる」


声に出さなくても、

分かる。


兄が帰ってきてから、

数値は一貫して下向きだった。


大幅ではない。

致命的でもない。


だが、

最適化という観点では明確な失点だ。


ペン先が、

止まる。


「原因」


と、

見出しを書く。


その下に、

一つだけ書く。


兄の存在


書いた瞬間、

胸の奥が少しだけ痛む。


(……事実だから)


感情ではなく、

観測結果だ。


次のページを開く。


「対策案」


一番上に、

自然に浮かんだ案を書く。


兄から距離を取る


具体案は、

いくつも出てくる。


・帰宅時間をずらす

・同じ空間にいない

・視界に入らない配置

・会話頻度を下げる


どれも、

合理的だ。


数値を回復させるには、

十分。


(……でも)


ペンが、

止まる。


兄がいない時間を増やす。


それは、

今まで考えたことのない選択だった。


(……強くなるために、

 兄を外す)


言葉にすると、

異様だ。


だが。


能力は、

それを要求している。


次に、

別の案を書く。


兄を意識しないようにする


消し線を引く。


不可能。


兄は、

意識しない対象ではない。


最初から、

計算に入っていない存在だった。


ノートの余白に、

小さく書く。


「感情ノイズ」


そして、

二重線で囲む。


(……消すべきノイズ)


その瞬間、

脳裏に浮かぶ。


朝の声。

「行ってきます」

「気をつけてな」


夜の声。

「無理、してないか」


どれも、

効率とは無関係だ。


なのに。


(……重い)


視線を外す。


それは、

兄を嫌うことではない。


兄を“影響因子から外す”だけ。


理屈は、

通る。


次のページ。


「実行した場合の予測」


箇条書きで、

書き出す。


・反応速度回復

・判断遅延の解消

・能力安定度向上


その下に、

小さく付け足す。


・兄との距離が広がる


ペンが、

止まる。


距離。


数字では、

測れない。


(……でも)


強さは、

測れる。


ノートを閉じ、

ベッドに横になる。


天井を見上げると、

一日の映像が流れる。


踏切。

横断歩道。

体育のスタート。


全部、

“迷った”瞬間がある。


そのたびに、

兄の顔が浮かんだ。


(……このままだと)


(私は、

 強くなりきれない)


それは、

事実だ。


だが。


(……強くなりきれない、

 って)


(それ、

 本当に悪いこと?)


自分で、

自分に問いかける。


答えは、

まだ出ない。


だが。


「……案としては、

 有効」


小さく、

呟く。


検討は、

始まった。


まだ、

決めてはいない。


ただ一つ、

確かなことがある。


兄の視線は、

 もう無視できない変数になった。


それを、

どう扱うか。


選ぶのは、

自分だ。


第二部は、

静かに、

しかし不可逆な分岐へ向かっている。

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