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第二部・第7話 未来を語る資格

会った場所は、

病院でも会議室でもなかった。


街から少し外れた、

人の少ない公園だった。


昼間なのに、

遊具は使われていない。

整備されすぎて、

逆に人が寄りつかない場所。


「……ここでいいですか」


声をかけてきたのは、

時雨 澪だった。


制服でもスーツでもない。

だが、

周囲から浮いてもいない。


目立たないことに最適化された立ち方。


「……ああ」


主人公は、

ベンチに腰を下ろす。


「突然呼び出して、

 すみません」


「いや」


それ以上、

言葉は続かない。


時雨は、

しばらく黙ったまま、

公園の端を見ていた。


「……最初に言っておきます」


「これは、

 忠告でも命令でもありません」


「あなたに、

 選択を迫る話でもない」


前置きとしては、

妙だった。


「ただ」


「知っている事実を、

 事実として伝えに来ました」


主人公は、

小さく頷く。


「……妹のことか」


時雨は、

視線をこちらに向けた。


「はい」


一拍。


「あなたの妹は、

 今後も能力を使います」


言い切りだった。


「意識的にではありません」


「恐らく本人は、

 “自分の判断が正しかった”と

 思い続けるでしょう」


「それ自体は、

 間違いではありません」


胸の奥が、

じわりと重くなる。


「……それで」


「未来は?」


時雨は、

一度だけ目を伏せた。


「分岐が、

 いくつかあります」


「ただし」


「共通点があります」


その言葉に、

主人公の背筋が伸びる。


「彼女は、

 止まりません」


「止まれなくなります」


説明は、

淡々としている。


「能力の強化条件が、

 人格と行動に直結している」


「つまり」


「“強くある自分”を

 選び続ける限り、

 別の選択肢が消えていく」


主人公は、

思わず拳を握った。


「……それは」


「悪い未来なのか」


時雨は、

すぐに答えなかった。


「……評価が、

 分かれます」


「彼女は、

 多くの人を助けます」


「結果として、

 英雄に近い扱いを

 受ける可能性もあります」


「同時に」


「“普通の中学生”としての未来は、

 ほぼ消えます」


公園に、

風が吹く。


ブランコが、

小さく揺れた。


「……それでも」


主人公は、

言葉を絞り出す。


「本人が選んでるなら」


時雨は、

静かに首を横に振った。


「選んでいるように見えるだけです」


「実際には」


「選択肢が、

 能力によって並べ替えられている」


その表現は、

鋭かった。


「彼女は、

 最適解を踏んでいる」


「でも」


「最適解しか、

 踏めなくなっている」


主人公は、

言葉を失う。


第一部で、

自分が辿った道と、

あまりにも似ていた。


「……俺は」


「それを、

 止めるべきか」


時雨は、

はっきりと言った。


「私には、

 答えられません」


「それを決めると、

 未来が見えなくなります」


少しだけ、

疲れた笑みを浮かべる。


「私は、

 “変えない側”なので」


沈黙が落ちる。


「……一つだけ」


時雨が、

続けた。


「確実なことがあります」


「あなたが、

 何も知らないままだった未来と」


「今の未来は、

 違います」


「彼女は」


「あなたが生きていることを、

 前提に選び続けています」


主人公は、

その言葉を

すぐに理解できなかった。


「……どういう意味だ」


「あなたがいなかった未来では」


「彼女は、

 もっと早く壊れました」


「効率だけを選び」


「人としての判断を、

 完全に捨てています」


時雨は、

静かに言う。


「あなたが、

 ここにいるから」


「彼女は、

 まだ“兄の目”を

 気にしている」


胸の奥で、

何かが音を立てて崩れた。


救いではない。

肯定でもない。


ただの、

事実。


「……俺は」


声が、

少し震える。


「何をすればいい」


時雨は、

ゆっくり首を振った。


「分かりません」


「でも」


「あなたが何もしない、

 という選択も、

 未来を変えます」


立ち上がる。


「それだけは、

 覚えておいてください」


時雨は、

それ以上何も言わず、

公園を後にした。


一人残された主人公は、

ベンチに座ったまま、

空を見上げる。


妹の顔が、

浮かぶ。


普通の妹。

最適化された妹。


どちらも、

確かに妹だ。


「……くそ」


小さく、

呟いた。


世界を救った時より、

よほど難しい問題が、

今、目の前にある。


第二部は、

静かに核心へ近づいている。

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