第二部・第3話 意図しない特定
結論に至るまで、
会議は長くなかった。
理由は単純だ。
証拠が、
揃いすぎていた。
通学路の事故回避。
商店街での制圧。
住宅街での火災初期消火。
いずれも、
現場に残った痕跡は少ない。
能力使用の波形は不明瞭。
明確な発動ログは存在しない。
それでも。
「……この反応曲線」
分析官が、
画面を指差す。
「人為的です」
「偶然ではありません」
数値は、
嘘をつかない。
反応速度の立ち上がり。
筋出力のピーク。
姿勢制御の収束。
すべてが、
“同じ型”を描いている。
「同一人物、
もしくは同一能力設計」
「しかも――」
別の分析官が、
続きを引き取る。
「戦闘向けではない」
「救助、回避、制圧」
「被害を最小化する方向にだけ、
極端に最適化されている」
会議室の空気が、
少し変わる。
「……つまり」
「攻撃性がない?」
「はい」
「少なくとも、
意図的に誰かを傷つける設計ではありません」
それは、
評価だった。
だが同時に、
不気味さの証明でもある。
「では、
なぜ今になって?」
質問が投げられる。
「管理対象の帰宅と、
時間が一致しています」
「生活圏の重なりも、
完全です」
画面に、
地図が表示される。
半径数キロの円。
中心点は、
一つ。
「……同居者」
誰かが、
言葉にする。
【同居家族】
【未成年】
「本人の能力登録は?」
「ありません」
「能力作成ログは?」
「存在します」
一斉に、
視線が集まる。
「……ランダム生成?」
「はい」
「意図的な設計はなし」
「条件設定も、
極めて単純」
会議室が、
静まり返る。
「……自覚は?」
「恐らく、
ありません」
「能力使用の“結果”を、
自分の判断だと思っている可能性が高い」
「……つまり」
「善意で動いた結果が、
能力として最適化されている」
その言葉は、
誰かを責めるものではなかった。
だが。
「危険度評価は?」
その質問で、
空気が戻る。
「現在は低」
「ただし」
「成長余地が高すぎます」
「人格と行動が、
強化条件と直結している」
「これは――」
一拍。
「放置できない型です」
決定は、
静かに下された。
「即時拘束は行わない」
「接触も、
現時点では不要」
「ただし」
「観測対象に追加」
名前が、
入力される。
年齢。
住所。
続柄。
備考欄に、
短い一文。
【能力発動は無意識】
【本人に敵意なし】
それでも、
フラグは立った。
その頃。
家では、
夕食の準備が進んでいた。
妹は、
手際よく野菜を切る。
包丁の音は、
一定。
「……今日は、
静かだったね」
兄が、
何気なく言う。
「うん」
「たまたま」
嘘ではない。
妹は、
本当にそう思っている。
「外、
なんかあった?」
「ニュース?」
「ううん」
妹は、
首を振る。
「特には」
それも、
本心だ。
自分がやったことが、
“能力の結果”だとは、
まだ理解していない。
ただ。
「……でも」
妹は、
一瞬だけ考える。
「今日は、
よく間に合った日だったなって」
兄は、
笑った。
「それ、
いいことじゃないか」
「うん」
妹も、
微笑む。
その裏で。
観測網は、
静かに網を狭めていた。
悪意はない。
敵意もない。
それでも。
能力は、
意図を待ってはくれない。
第二部は、
確実に次の段階へ進んだ。




