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第45話 特異点という名の個人

決定は、

すでに下されていた。


書面に残り、

記録に保存され、

修正不可として封印された。


【対象個体:特異点】

【分類:個人】

【状態:生存】

【扱い:管理対象】


それは、

命令でも宣告でもない。


世界が、そう扱うと決めただけの事実だった。


隔離区画は、

以前よりも広くなった。


壁は厚く、

設備は増え、

人の出入りは減った。


「監視」という言葉を使う者はいない。


「保護」と言う者も、もういない。


代わりに使われる言葉は、

いつも同じだった。


「安定化」


主人公の身体は、

まだ完全ではない。


皮膚は再生途中。

神経は不完全。

筋肉は仮の形で保たれている。


だが、

数値は確実に上向いていた。


誰かが治したわけじゃない。

誰かが成功させたわけでもない。


失敗が、最短距離で積み重なっただけだ。


回復能力者たちは、

一人、また一人と去っていく。


条件は果たされた。

代償は支払われた。


誰も、

「救った」とは言わなかった。


幼馴染は、

最後まで残った。


隔離壁の前に立ち、

何も言わず、

ただ中を見ている。


「……なあ」


返事は、

ない。


「お前さ」


「英雄じゃなくてよかったな」


それは、

慰めでも冗談でもなかった。


「英雄だったら」


「きっと、

 また一人で

 全部引き受けてた」


拳を握り、

ゆっくり開く。


「……管理対象ってのも」


「正直、

 気に食わねえけど」


「少なくとも」


「世界が、お前を“使う”のを

 止める理由にはなる」


幼馴染は、

小さく息を吐いた。


「……生きろ」


「それだけで、

 いい」


その言葉は、

届かなくても構わなかった。


隔離区画の奥。


主人公の指が、

微かに動く。


意識は、

まだ戻らない。


だが、

生きていることだけは確かだ。


分析部門の報告書は、

最後にこう結ばれている。


【当該個体は】

【意図せず、確率分布に偏りを生じさせる】

【行動ではなく、存在そのものが影響源】


【よって】


【本件は、事件ではない】

【災害でもない】


【現象である】


異世界連合の記録には、

別の表現が残された。


【特異点】


【世界と世界の間に生じた】

【個人単位の歪み】


【対話不可】

【排除不可】

【放置不可】


【ゆえに、管理する】


それは、

どこまでも冷たい言葉だった。


だが。


主人公自身は、

何も知らない。


自分が、

英雄にならなかったことも。


世界の前提を、

壊したことも。


ただ。


目を覚ましたとき、

きっとこう思う。


「……生きてるのか」


それだけだ。


そして、

それこそが。


この男にとって、

唯一の“正解”だった。


第一部は、

ここで終わる。


世界は救われた。

だが、納得はしていない。


主人公は生きている。

だが、自由ではない。


そして。


この物語は、

 “勝利の後”から始まる。


第一部・完

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