第40話 彼らは、善人ではなかった
最初に来たのは、
一人だけだった。
拍手もなければ、
歓迎もない。
ただ、受付端末に名前が入力され、
隔離区画の前で足が止まる。
「……条件を、先に聞きたい」
男はそう言った。
声は落ち着いているが、
目は一切笑っていない。
能力名は伏せられている。
だが、登録内容だけで分かる。
高位回復能力者だ。
「対象の状態は?」
医療担当が、
簡潔に答える。
「重度放射線被曝」
「全身熱傷」
「神経系の広範囲損傷」
男は、
一瞬だけ目を伏せた。
「……正直に言います」
「成功率は、低い」
その言葉に、
誰も反応しなかった。
期待していないからだ。
「それでも、
やる理由は?」
医療担当が聞く。
男は、
少し考えてから答えた。
「試したい」
「このレベルの損傷は、
前例がない」
「成功すれば」
「俺の能力は、
一段階、定義が変わる」
それは、
善意じゃない。
自己投資だ。
条件は、
すぐに出た。
「二次被曝対策を、
万全に」
「失敗した場合、
俺の能力評価を
下げないこと」
「記録は、
匿名で残す」
幼馴染は、
すべて頷いた。
「引き受ける」
それで、
一人目が決まった。
次に来たのは、
女だった。
能力は、
状態異常解除。
「毒、麻痺、
精神干渉、
放射線」
「ただし」
「一度に一種類だけ」
制約は、
厳しい。
「……順番を間違えたら?」
医療担当が聞く。
女は、
肩をすくめた。
「死ぬ」
それだけだ。
条件は、
さらに続く。
「私が解除するのは、
症状だけ」
「原因は、
残る」
「だから」
「何度も呼ばないで」
それは、
負担が大きい証拠だった。
幼馴染は、
即答した。
「一回でいい」
三人目は、
来る前から有名だった。
自然治癒強化型。
時間を、
味方につける能力。
「……一週間」
男は、
開口一番そう言った。
「最低でも、
一週間」
「それ以下なら、
引き受けない」
「なぜ?」
「俺の能力は、
“回復”じゃない」
「“回復し続ける状態”を
作るだけだ」
「途中で止めたら」
「反動が来る」
それは、
危険すぎる条件だった。
幼馴染は、
歯を食いしばった。
「……前線は?」
「知らん」
「俺は、
人を治すために来た」
「戦争は、
お前らの仕事だ」
正しい。
四人目、
五人目。
能力は、
どれも噛み合わない。
回復だけでは足りない。
解除だけでも足りない。
維持だけでも足りない。
組み合わせが必要だった。
条件も、
バラバラだ。
「失敗しても、
責任を問わない」
「能力の詳細は、
公開しない」
「治った後、
俺には関わらせるな」
誰一人、
「助けたい」とは言わない。
その事実が、
逆に信頼できた。
医療担当が、
小さく呟く。
「……英雄を救う、
って感じじゃないですね」
幼馴染は、
即座に返した。
「最初から、
英雄じゃねえ」
「だから」
「条件を飲める」
最後に。
誰も、
一つだけ避けている話題があった。
「……本人の意思」
幼馴染は、
少し黙ってから言う。
「聞かなくていい」
「聞いたら」
「あいつは、
全部断る」
その場に、
静かな納得が広がる。
回復能力者たちは、
それ以上、何も言わなかった。
彼らは、
善人じゃない。
だが。
自分の代償を、
自分で理解している人間だった。
それで、
十分だった。
隔離区画の奥。
透明な壁の向こうで、
主人公はまだ眠っている。
この部屋に集まったのは、
希望じゃない。
条件と代償を理解した、
現実的な人間たちだ。
そして。
ここから先は、
“治療”ではない。
実験に近い、
賭けが始まる。




