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第4話 ゴリラは、考えた末に殴る

体育館の外は、

もう戦場だった。


割れたガラス。

転がる車。

焦げた匂い。


「……まだ動けねえか」


低い声がした。


振り向く前に、

分かった。


「来るなって言っただろ」


俺は、そう言った。


返事はなかった。


「動けないなら、黙ってろ」


腕を掴まれ、

そのまま引きずられる。


乱暴。

でも、力加減は正確だった。


「おい、離せ!」


「離さねえ」


短く、即答。


外に出た瞬間、

風が顔に当たる。


遠くで、

また何かが壊れる音。


「……お前、何してた」


幼馴染は、

俺の顔を見ていなかった。


前だけを見ている。


「何も」


「嘘だな」


幼馴染――

見た目はゴリラだ。


背が高く、

肩幅が広く、

拳がでかい。


でも、

こいつは意外と頭を使う。


使うときだけ。


「さっきの崩落」


幼馴染が言う。


「お前の真横だ」


「……偶然だろ」


「偶然にしちゃ、出来すぎだ」


歩きながら、

瓦礫を蹴り飛ばす。


「敵の攻撃、

 全部お前避けてる」


「その代わり」


一瞬だけ、

声が低くなった。


「周りがやられてる」


言い返せなかった。


第3話の光景が、

頭に蘇る。


俺だけが、

無傷だった。


「だから」


幼馴染は立ち止まり、

ようやく俺を見る。


「お前は、前線に立つな」


「……は?」


「理解できない能力は、

 前線に置かない」


淡々とした判断。


感情は、

そこになかった。


「でも」


俺は、

必死に言葉を探す。


「ここにいたら、

 俺も何かできるかもしれない」


幼馴染は、

鼻で笑った。


「できてねえ」


一言。


その瞬間、

背後で爆発が起きた。


地面が揺れる。


幼馴染は、

即座に俺を庇う位置に立つ。


反射だ。


「……ほらな」


幼馴染は、

俺を指差した。


「お前がここにいるだけで、

 周りが歪む」


「守られてるのは、

 お前だけだ」


俺は、

何も言えなかった。


事実だったからだ。


「後方行け」


幼馴染は、

俺を押し出す。


「隔離だ」


「お前、

 守るために引き離してるだろ」


俺が言うと、

幼馴染は一瞬だけ黙った。


「……違う」


否定。


でも、

完全じゃない。


「危険だから引き離す」


それだけだ。


後方エリア。


仮設の指揮所。


人が集まっている。


俺を見て、

視線が集まる。


その中には、

さっきの戦闘で怪我をした能力者もいた。


誰も、

近づいてこない。


幼馴染は、

俺の肩を掴む。


「ここにいろ」


「動くな」


「勝手に賭けるな」


一つずつ、

釘を刺す。


「俺が前に出る」


それだけ言って、

背を向けた。


その背中は、

やけに大きかった。


頼もしい、

はずだった。


でも、

俺は知っている。


こいつは、

俺の代わりに削られる。


その役を、

自分から選ぶ。


視界の端で、

数字がまた揺れた。


【スキルポイント:101】


さっきと同じ。


増えない。

減らない。


――止まっている?


「……なんなんだよ、これ」


独り言は、

誰にも届かなかった。


幼馴染が、

前線で殴り合っている。


能力で強化された肉体。


敵の攻撃を、

真正面から受ける。


俺は、

それを後ろから見ている。


守られている。


隔離されている。


生きている。


その全部が、

重かった。


俺は、

はっきりと理解した。


この戦場で――

俺は武器じゃない。


危険物だ。

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