第39話 生かす価値は、誰のものだ
募集は、即日で公開された。
秘匿でも、限定でもない。
あまりにも堂々とした形で、全世界に向けて発信された。
【回復能力者募集】
【対象:重度放射線被曝・全身熱傷・複合神経障害】
【必要能力:回復/解毒/状態異常解除】
【危険度:極めて高】
そこには、
名前も、英雄譚も書かれていない。
ただ一文だけ、
目的が記されていた。
【目的:対象の生命維持および回復可能性の検証】
「……検証、だと?」
その言葉が、
最初の火種だった。
配信は、
政府主導で行われた。
隠せば、
不信が膨らむ。
公開すれば、
衝突は避けられない。
画面の向こうには、
世界中の顔がある。
能力者。
研究者。
一般人。
コメント欄は、
すでに荒れていた。
「助けるのが当たり前だろ」
「英雄を実験材料にするな」
「被曝者を増やす気か」
司会役の官僚が、
淡々と説明を始める。
「本件は」
「感情ではなく、
資源管理の問題です」
その一言で、
空気が凍った。
「対象は」
「人類悪を排除した個人」
「功績は、
否定されません」
「しかし」
「一人を救うために、
複数の能力者を危険に晒す行為が、
合理的かどうか」
「その判断が、
求められています」
数字が、
画面に表示される。
想定必要人数。
成功確率。
二次被曝率。
どれも、
現実的で、冷たい。
「……つまり」
画面越しに、
誰かが言う。
「“割に合わない”ってことか」
官僚は、
否定しなかった。
「可能性は、
低い」
「完全回復は、
ほぼ不可能」
「部分回復であっても」
「社会復帰は、
想定できない」
その瞬間。
幼馴染が、
カメラの前に出た。
「……それで?」
声は、
静かだった。
「だから何だ」
コメント欄が、
一気に止まる。
「価値の話をしてるなら」
「お前ら、
順番を間違えてる」
官僚が、
眉をひそめる。
「感情論は――」
「違う」
「順番の話だ」
幼馴染は、
画面を真っ直ぐ見た。
「まず聞け」
「生かす価値を、
誰が決める」
一拍。
「国家か」
「数字か」
「世論か」
「……それとも」
「本人か」
誰も、
即答できなかった。
「本人は、
どう言ってる?」
沈黙。
官僚が、
低く答える。
「……意思確認は、
不可能です」
「意識不明です」
「だから」
「周囲が判断する必要がある」
幼馴染は、
一瞬、目を閉じた。
そして、
言った。
「……あいつなら」
「“やめろ”って言う」
その言葉が、
会場を揺らした。
「他人を危険に晒すな」
「割に合わない」
「合理的じゃない」
「……全部、
あいつの口癖だ」
「でもな」
幼馴染は、
拳を握る。
「だからって、
全部その通りにするな」
「本人が」
「自分を切り捨てるのと」
「周りが」
「切り捨てるのは、
意味が違う」
コメントが、
一気に流れ出す。
「それはそう」
「本人の意思を盾にするな」
「合理性が暴力になってる」
官僚が、
苦しそうに言う。
「……では」
「誰が、
責任を取るのですか」
幼馴染は、
即答した。
「俺だ」
ざわめき。
「回復能力者を、
募る責任」
「失敗した場合の、
責任」
「被曝した場合の、
責任」
「全部、
俺が引き受ける」
「前線で」
「死ぬより重いなら」
「その程度で済むなら」
「安い」
官僚は、
言葉を失った。
合理性で、
殴り返せない。
なぜなら。
感情の側が、
すでに覚悟を支払っているからだ。
募集は、
取り下げられなかった。
だが。
“検証”という言葉は、
消えた。
代わりに、
こう書き換えられた。
【目的:対象の生命回復を試みる】
それだけで、
世界の温度が変わる。
完全な正しさは、
どこにもない。
だが。
切り捨てない、
という選択肢だけが残った。




