表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/96

第39話 生かす価値は、誰のものだ

募集は、即日で公開された。


秘匿でも、限定でもない。

あまりにも堂々とした形で、全世界に向けて発信された。


【回復能力者募集】

【対象:重度放射線被曝・全身熱傷・複合神経障害】

【必要能力:回復/解毒/状態異常解除】

【危険度:極めて高】


そこには、

名前も、英雄譚も書かれていない。


ただ一文だけ、

目的が記されていた。


【目的:対象の生命維持および回復可能性の検証】


「……検証、だと?」


その言葉が、

最初の火種だった。


配信は、

政府主導で行われた。


隠せば、

不信が膨らむ。


公開すれば、

衝突は避けられない。


画面の向こうには、

世界中の顔がある。


能力者。

研究者。

一般人。


コメント欄は、

すでに荒れていた。


「助けるのが当たり前だろ」

「英雄を実験材料にするな」

「被曝者を増やす気か」


司会役の官僚が、

淡々と説明を始める。


「本件は」


「感情ではなく、

 資源管理の問題です」


その一言で、

空気が凍った。


「対象は」


「人類悪を排除した個人」


「功績は、

 否定されません」


「しかし」


「一人を救うために、

 複数の能力者を危険に晒す行為が、

 合理的かどうか」


「その判断が、

 求められています」


数字が、

画面に表示される。


想定必要人数。

成功確率。

二次被曝率。


どれも、

現実的で、冷たい。


「……つまり」


画面越しに、

誰かが言う。


「“割に合わない”ってことか」


官僚は、

否定しなかった。


「可能性は、

 低い」


「完全回復は、

 ほぼ不可能」


「部分回復であっても」


「社会復帰は、

 想定できない」


その瞬間。


幼馴染が、

カメラの前に出た。


「……それで?」


声は、

静かだった。


「だから何だ」


コメント欄が、

一気に止まる。


「価値の話をしてるなら」


「お前ら、

 順番を間違えてる」


官僚が、

眉をひそめる。


「感情論は――」


「違う」


「順番の話だ」


幼馴染は、

画面を真っ直ぐ見た。


「まず聞け」


「生かす価値を、

 誰が決める」


一拍。


「国家か」


「数字か」


「世論か」


「……それとも」


「本人か」


誰も、

即答できなかった。


「本人は、

 どう言ってる?」


沈黙。


官僚が、

低く答える。


「……意思確認は、

 不可能です」


「意識不明です」


「だから」


「周囲が判断する必要がある」


幼馴染は、

一瞬、目を閉じた。


そして、

言った。


「……あいつなら」


「“やめろ”って言う」


その言葉が、

会場を揺らした。


「他人を危険に晒すな」


「割に合わない」


「合理的じゃない」


「……全部、

 あいつの口癖だ」


「でもな」


幼馴染は、

拳を握る。


「だからって、

 全部その通りにするな」


「本人が」


「自分を切り捨てるのと」


「周りが」


「切り捨てるのは、

 意味が違う」


コメントが、

一気に流れ出す。


「それはそう」

「本人の意思を盾にするな」

「合理性が暴力になってる」


官僚が、

苦しそうに言う。


「……では」


「誰が、

 責任を取るのですか」


幼馴染は、

即答した。


「俺だ」


ざわめき。


「回復能力者を、

 募る責任」


「失敗した場合の、

 責任」


「被曝した場合の、

 責任」


「全部、

 俺が引き受ける」


「前線で」


「死ぬより重いなら」


「その程度で済むなら」


「安い」


官僚は、

言葉を失った。


合理性で、

殴り返せない。


なぜなら。


感情の側が、

 すでに覚悟を支払っているからだ。


募集は、

取り下げられなかった。


だが。


“検証”という言葉は、

 消えた。


代わりに、

こう書き換えられた。


【目的:対象の生命回復を試みる】


それだけで、

世界の温度が変わる。


完全な正しさは、

どこにもない。


だが。


切り捨てない、

 という選択肢だけが残った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ