第32話 百は、溜めるものじゃない
会議室に集められた顔ぶれは、少なかった。
前線指揮官。
分析担当。
異世界連合の仲介官。
そして、俺。
人数が少ないのは、
この話が広まるべきじゃないからだ。
「時間がない」
俺は、前置きをしなかった。
「人類悪は、移動を続けている」
「次にどこを踏むか、予測できない」
「だから」
「百%天運を“溜める”案は破棄する」
空気が、少し張る。
「……待て」
前線指揮官が、眉をひそめる。
「それが切り札なんだろう?」
「違う」
「切り札は、
“百%”の方だ」
俺は、
スキル画面を表示した。
【保険運】
【保険ポイント:3】
【消費=確率%】
「この能力は、
誤解されやすい」
「百ポイント貯めれば、
百%になる」
「だが」
「逆も成立する」
分析担当が、
ゆっくりと口を開く。
「……百%の確率事象を、
“一つに固定”すればいい?」
「そうだ」
「天運の“対象”を、
極端に限定する」
俺は、
画面を切り替えた。
表示されたのは、
確率モデル。
「天運は、
“良い出来事”を起こす」
「抽象度が高いほど、
結果は暴れる」
「だから、
デパートは倒壊した」
「なら」
「抽象度を、
限界まで下げる」
会議室が、
静まる。
「……具体的には」
仲介官が、
慎重に聞いた。
「一つだけ」
「人類悪を、
確実に殺せる現象」
俺は、
淡々と言った。
「それ以外は、
どうでもいい」
「街がどうなろうが」
「俺がどうなろうが」
「結果が一つなら、
確率は一つに収束する」
前線指揮官が、
低く息を吐く。
「……兵器の話か」
「そうだ」
「原子爆弾」
言葉が、
そのまま落ちた。
否定は、
すぐには来なかった。
「爆弾限定で、
とんでもない割合で
強化できる能力者がいる」
「彼に、
全てを注ぎ込ませる」
「起爆条件は、
俺の死亡、
もしくは接触」
「……正気か」
「正気だ」
「だから、
成立する」
俺は、
一枚の図を表示する。
人類悪。
俺。
爆弾。
「天運は、
“気づかれない”確率を引き上げる」
「悪運は、
“即死しない”結果を選ぶ」
「幸運は、
俺を素通りする」
「保険運は、
百%を保証する」
「保証するのは、
一点だけだ」
「人類悪が死ぬ」
仲介官が、
ゆっくりと問いかける。
「……あなたが、
死ぬ可能性は?」
「高い」
即答。
「だが」
「それは、
作戦に含まれている」
分析担当が、
声を落とす。
「……放射能、
熱線、
衝撃波」
「回復不能の可能性が――」
「ある」
「だから」
「後処理の回復班を、
今から集める」
前線指揮官が、
拳を握る。
「……お前」
「人を、
爆弾にする気か」
「違う」
「俺が、
爆弾を持つ」
沈黙。
これは、
英雄の発言じゃない。
道具の宣言だ。
「この案の利点は、
三つある」
俺は、
指を立てる。
「一つ」
「人類悪は、
人殺しに夢中になる」
「純粋な悪人ほど、
“人を殺す瞬間”に集中する」
「だから」
「爆弾に気づかない」
「二つ」
「一度きりだ」
「再現できない」
「真似できない」
「英雄神話にならない」
「三つ」
「失敗しても、
世界は続く」
「俺が死んでも」
「人類悪が生き残っても」
「次の手は、
用意できる」
誰も、
すぐに返さなかった。
だが。
否定できる理屈も、
存在しなかった。
「……百%か」
仲介官が、
低く言う。
「ええ」
「百%を、
“積む”時間はない」
「だから」
「百%を、
“作る”」
俺は、
画面を閉じた。
次にやることは、
もう決まっている。
「……準備しろ」
「俺は、
天運を押す」




