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第23話 縛り方を、間違えるな

幼馴染が前線復帰の準備に入ったという報告は、

俺が一人になった直後に届いた。


短い文面だった。

条件、制約、想定運用。

感情は一切含まれていない。


――らしいな、と思った。


あいつは、殴る前に考えるやつじゃない。

でも、考えたときは、必ず殴る理由がある。


俺は、指揮所の端にある簡易デスクに腰を下ろした。


周囲は騒がしい。

通信、足音、指示。

だが、俺の意識はそこにない。


視界の中心にあるのは、

スキル編集画面だけだ。


【現在の制約】


・幸運:対象を使用者本人から除外

・悪運:未設定

・天運:未設定


数字が、冷たく並んでいる。


「……足りないな」


独り言が、自然と出た。


足りないのは、ポイントじゃない。

縛りの数でもない。


思想が、足りない。


幸運は縛った。


それは、

「自分が生き残るために他人を削らない」

という、分かりやすい線引きだった。


正しい。

少なくとも、今の俺にとっては。


だが。


悪運と天運は、

まだ“野放し”だ。


悪運は、命に関わるときにだけ発動し、

被害を最小限に抑える。


天運は、週に一度、

天文学的確率を現実にする。


どちらも、

俺の意思を必要としない。


それが、一番危険だ。


デパートで理解した。


天運は、

「俺を助ける力」じゃない。


世界を、

最短で片付ける力だ。


その結果、

俺がどうなるかは二の次。


悪運も同じだ。


死なない。

だが、

一番苦しい形で生かされる。


「……便利すぎる」


だからこそ、

制約が必要だ。


俺は、

紙を取り出した。


ペンで、

線を引く。


悪運に制約を付ける場合


・発動回数制限

・対象範囲限定

・代償の明文化


考える。


悪運は、

「死なない配置」を作る。


なら、

それを縛るとしたら――


「……代わりに、

 何を差し出す?」


悪運が発動するたびに、

身体機能が恒久的に低下する?


視力。

反射。

内臓。


それは、

確かに“重い”。


だが。


それは、

遅効性すぎる。


戦場では、

今を生き残れなければ意味がない。


却下。


次。


天運に制約を付ける場合


ここが、

一番慎重になる。


天運は、

切り札だ。


切り札は、

振り回すものじゃない。


条件を付けるなら、

発動後の代償だ。


・発動後、一定時間行動不能

・発動後、能力全停止

・発動後、他能力の制約強化


指が、止まる。


「……能力全停止」


もし、天運を使った後、

俺がただの人間になるとしたら。


銃弾は、

普通に当たる。


瓦礫は、

普通に潰す。


英雄は、そこで終わる。


「……それは、

 使えない切り札だな」


自嘲気味に呟く。


だが、

同時に思う。


それでいいのかもしれない。


幼馴染は、

「戦っている間だけ回復する」という保険を掛けた。


引いた瞬間、

壊れたままになる。


なら、

俺の保険は何だ。


「……俺は、

 引かない役だ」


引かないなら、

止まる条件を作るしかない。


ペンが、動く。


【天運:制約案】


・発動は使用者の意思による

・発動時、他能力の制約が強制的に一段階強化

・強化内容は、事前に指定不可


「……不確定要素、

 増やしすぎか」


だが、

それが狙いだ。


天運は、

最適解を出す。


だからこそ、

その後始末を最悪にする。


世界を救った代わりに、

俺がどこまで壊れるか。


それを、

自分で引き受ける。


「……まだ、決めない」


俺は、

ペンを置いた。


今、確定させるべき制約は一つだけだ。


悪運。


悪運は、

“最後の最後”に働く。


なら、

最後の最後に何を守るかを、

今、決めておく。


画面を操作する。


【悪運:制約追加】


警告が表示される。


【注意】

この制約は、使用者の生存戦略に大きな影響を与えます。


俺は、

深く息を吸った。


「……命は、

 守らせる」


「でも」


「未来は、

 守らせない」


入力。


【制約内容】

悪運の効果を「当日の生存」に限定する。

翌日以降の後遺症・障害・機能低下は、一切軽減しない。


数字が、跳ね上がる。


【還元スキルポイント:+22】


画面を閉じる。


これで、

俺は“生き延びる”。


だが、

生き続けられる保証は、消えた。


それでいい。


悪運に、

明日までの責任を持たせるな。


天運に、

俺の人生まで預けるな。


「……これで、

 釣り合う」


指揮所の外で、

前線復帰の号令が鳴った。


幼馴染が、

また戦う。


俺も、

考えるのを終える。


次に天運を使うとき。


俺は、

 今日しか守られない。

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