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第22話 ゴリラは、保険を掛けてから殴る

幼馴染が目を覚ましたのは、

回復の異常が正式に記録された、その翌朝だった。


医療テントの外は、相変わらず騒がしい。

交代する部隊、補給、負傷者の搬送。

戦場は、誰かが休んだくらいでは止まらない。


だが、その中心から少し外れた場所で、

一つだけ、止まってはいけない判断が行われようとしていた。


「……もう大丈夫だ」


幼馴染は、そう言った。


点滴は、まだ繋がっている。

背中には、固定具も残っている。

誰が見ても、“大丈夫”と言える状態じゃない。


医師が、即座に首を横に振る。


「却下です」


「あなたの身体は、

 まだ回復途中です」


「分析結果も――」


「分かってる」


幼馴染は、

被せるように言った。


声は、落ち着いている。

昨日までの、焦りや怒りはない。


「だから」


「条件を出す」


医師と分析担当が、

同時に顔を上げた。


「条件?」


幼馴染は、

ゆっくりと上体を起こす。


その動作自体が、

回復が進んでいる証拠だった。


「俺は、

 前線に戻る」


「ただし」


一拍。


「戦っている間しか、

 能力を使わない」


室内が、

一瞬静まる。


「……どういう意味ですか」


分析担当が、慎重に聞く。


幼馴染は、

自分の胸を軽く叩いた。


「俺の能力は、

 身体能力を限界まで引き上げる」


「筋力、反応、耐久」


「で」


「自然治癒も、

 その延長にある」


医師が、

嫌な予感を覚えた顔をする。


「つまり」


「戦っている間だけ、

 回復が加速するように制限する」


「……制約を付ける、ということですか」


「そうだ」


幼馴染は、

即答した。


「戦闘状態をトリガーにする」


「前線にいる間は、

 回復が進む」


「だが」


「引いた瞬間、

 普通の人間に戻る」


その言葉は、

思った以上に重かった。


医師が、

眉をひそめる。


「それは……」


「あなた自身の回復を、

 遅らせる選択になります」


「分かってる」


「でもな」


幼馴染は、

はっきり言った。


「それが、保険だ」


分析担当が、

思わず聞き返す。


「……保険?」


「俺がもし」


幼馴染は、

言葉を選びながら続ける。


「回復能力を、

 常時全開にしたままだったら」


「前線に出る理由が、

 無限に増える」


「怪我しても戻れる」


「壊れても、治る」


「それは」


「使い潰せ、って言われてるのと同じだ」


室内が、

静まり返る。


「だから」


「戦っている間しか、

 回復しない」


「引いたら、

 ちゃんと壊れたままだ」


「それなら」


「引く判断が、

 本気になる」


その理屈は、

あまりにも冷静だった。


医師は、

しばらく黙っていた。


「……その制約」


「回復速度は、

 どの程度落ちます?」


幼馴染は、

少し考える。


「分からん」


正直な答え。


「でも」


「戦闘中は、

 今と同じか、それ以上だ」


分析担当が、

画面を操作する。


「……理論上」


「回復の“異常性”は、

 抑えられます」


「常時発動でなければ、

 制御不能判定は――」


「解除できるな」


医師が、

低く言った。


分析担当は、

頷いた。


「……はい」


医師は、

深く息を吐く。


「分かりました」


「条件付きで、

 前線復帰を認めます」


幼馴染は、

小さく笑った。


「助かる」


その瞬間。


テントの入口に、

俺が立っていることに気づいた。


幼馴染は、

俺を見る。


目が合う。


「……聞いてたな」


「全部」


俺は、

正直に答えた。


「お前」


幼馴染は、

少しだけ困った顔をした。


「ゴリラのくせに、

 頭使いすぎだろ」


「うるせえ」


「俺はな」


「お前の能力の、

 被害者になるつもりはねえ」


「だから」


「ちゃんと、

 自分で縛る」


その言葉は、

第12話の宣言の続きだった。


俺は、

何も言えなかった。


これは、

止める話じゃない。


覚悟が、

 並んだ瞬間だ。

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