第20話 壊れたまま、治り始める
幼馴染は、生きていた。
それだけで言えば、結果は成功だった。
瓦礫の直撃を受け、背中から叩きつけられ、内臓にまで衝撃が回ったにもかかわらず、心臓は止まらなかったし、呼吸も維持されていた。
だが、
「無事だった」と言える状態ではない。
医療テントの中は、忙しなかった。
モニター音が鳴り、指示が飛び、誰かが走る足音が絶え間なく続いている。
その中心に、幼馴染は横たわっていた。
意識はある。
目も開いている。
だが、身体は動かない。
「……感覚は?」
医療スタッフが、慎重に問いかける。
「……ある」
幼馴染は、短く答えた。
「背中と……脚が、重い」
それは、
悪い兆候だった。
検査結果が、次々に表示される。
骨折。
内出血。
神経圧迫。
どれも、
即死しなかった代わりに残った代償だ。
「……歩行は、厳しいかもしれません」
医師が、はっきりと言った。
声は淡々としているが、
言葉は重い。
「少なくとも、
前線復帰は――」
「待て」
幼馴染が、遮った。
声は、
思ったよりもしっかりしていた。
「……まだ、決めるな」
医師が、
僅かに眉をひそめる。
「現状では――」
「分かってる」
幼馴染は、
天井を見たまま言った。
「俺の身体は、
今、壊れてる」
一拍。
「……でも」
その次の言葉が、
少しだけ変だった。
「治ってきてる」
医療テントの空気が、
一瞬、止まった。
「……何を根拠に?」
医師が、
静かに聞き返す。
幼馴染は、
ゆっくりと息を吸う。
「分からん」
正直な答えだった。
「ただ」
「さっきより、
呼吸が楽だ」
「胸の奥の痛みが、
減ってる」
「気のせいでは?」
誰かが言った。
「……かもしれん」
幼馴染は、
素直に認める。
「でもな」
「俺は、自分の身体の変化だけは、
見誤らない」
医師は、
モニターに視線を戻した。
数値を確認し、
もう一度、確認する。
「……心拍、安定してる」
「酸素飽和度、上がってます」
別のスタッフが、
驚いた声を上げる。
「回復速度、
想定より早いです」
「自然治癒……?」
医師が、
呟く。
幼馴染は、
わずかに口角を上げた。
「……能力だ」
全員が、
幼馴染を見る。
「俺の能力」
幼馴染は、
途切れ途切れに説明する。
「身体能力を、
限界まで引き上げるタイプだ」
「筋力も、
反応も」
「……で」
一拍。
「自然治癒も、
例外じゃない」
その言葉は、
静かだった。
だが、
医療側にとっては、衝撃だった。
「待ってください」
医師が、
すぐに反応する。
「自然治癒の強化は、
理論上――」
「無茶だ」
幼馴染が、
先に言った。
「分かってる」
「治る代わりに、
身体を酷使する」
「回復する分、
消耗も激しい」
「だから」
「……俺は、
無理をしない」
その言葉に、
誰も反論できなかった。
モニターの数値が、
僅かに、だが確実に改善していく。
出血量が減り、
神経反応が戻り始めている。
「……異常です」
分析担当が、
低く言った。
「この回復、
正常じゃありません」
医師は、
頷いた。
「ええ」
「でも」
「止められる異常でもない」
幼馴染は、
目を閉じた。
疲労が、
一気に押し寄せている。
「……なあ」
小さな声で、
言う。
「俺が前に出るのは、
まだ先でいい」
「でも」
「戻れる可能性があるなら、
それで十分だ」
その言葉は、
誰に向けたものでもない。
ただ、
一つだけ確かなことがあった。
幼馴染は、
壊れたまま――
治り始めている。




