第19話 それでも、外は安全じゃない
瓦礫が動いた。
内側からじゃない。
外側からだ。
重いものが擦れる音。
コンクリートが割れる、鈍い衝撃。
人の力で動かしていると分かる、遅くて確実な動き。
俺は、声を出そうとして――出なかった。
喉が、乾いている。
舌が、重い。
「……生きてるか」
声が、聞こえた。
低い。
聞き慣れた声。
聞き違えるはずがない。
「……おい」
もう一度。
今度は、
少しだけ急いている。
「……生きてる」
掠れた声で、
それだけ返す。
言えたのは、
それだけだった。
瓦礫の隙間から、
光が一気に差し込む。
眩しさに、
思わず目を閉じる。
次に開いたとき、
そこにいたのは――
幼馴染だった。
包帯。
固定具。
それでも、
前に出ている。
「……ったく」
幼馴染は、
俺の顔を見るなり吐き捨てる。
「本当に、
運の悪い奴だな」
「……どの口が」
そう返そうとして、
咳き込む。
肺が、
空気を欲しがっている。
幼馴染は、
すぐに動いた。
周囲を確認し、
俺の脚を挟んでいる瓦礫に手を掛ける。
「動かすぞ」
「……待て」
俺は、
反射的に言った。
「一気に崩れる」
「……今の配置は、
まだ“死なない形”だ」
幼馴染の動きが、
一瞬止まる。
「……分かるのか」
「……なんとなく」
それしか、
言えなかった。
幼馴染は、
舌打ちした。
「クソ能力だな」
それでも、
慎重に瓦礫をずらす。
少しずつ。
音を聞きながら。
そのとき。
嫌な気配がした。
背中が、
ぞわりと冷える。
胸の奥が、
ひやりと沈む。
「……来る」
俺は、
反射的に言った。
「何がだ」
幼馴染が、
顔を上げる。
次の瞬間。
瓦礫の向こう側で、爆発音がした。
近い。
近すぎる。
「伏せろ!」
幼馴染が叫ぶ。
遅かった。
瓦礫が、
外側から崩れた。
今まで“安全側”に配置されていた重さが、
一気に方向を変える。
俺の視界が、
また暗くなる。
だが。
直撃は、しない。
代わりに。
「――ぐっ!」
幼馴染の呻き声。
瓦礫が、
幼馴染の背中を直撃した。
「……っ、は……」
息が、
詰まる音。
俺は、
理解した。
悪運だ。
俺が死なないために、
配置が動いた。
だが、
その代償は――
「……やっぱり、な」
幼馴染が、
苦笑した。
声が、
震えている。
「最後の最後に、
俺かよ」
「……すまない」
俺は、
それしか言えなかった。
「謝るな」
幼馴染は、
即座に言い切る。
「分かって来てる」
「それが、お前の能力だ」
瓦礫の動きが、
止まる。
外から、
別の声が聞こえる。
「確保した!」
「引き抜ける!」
幼馴染は、
俺を見る。
近い。
「……生きてたな」
「……生きてた」
「それでいい」
短く、
それだけ言った。
次の瞬間、
俺の身体が引き抜かれる。
光。
空気。
音。
世界が、
一気に戻ってくる。
外だ。
本当に、
外だ。
だが。
幼馴染は、
その場に崩れ落ちた。
「医療班!」
誰かが叫ぶ。
担架が来る。
幼馴染は、
運ばれながら俺を見る。
目は、
まだはっきりしている。
「……なあ」
掠れた声。
「次は」
「俺が、
ちゃんと縛る」
それだけ言って、
目を閉じた。
俺は、
その場に立ち尽くした。
助かった。
確かに。
だが。
悪運は、
俺の外側にも、
影響を及ぼし始めている。
それを、
はっきりと理解した。




