第13話 許可される犠牲
会議は、地下で行われた。
正確には、
「地下」という言葉が一番近い場所だった。
厚い壁、簡素な机、無駄のない照明。
爆音も、悲鳴も、ここまでは届かない。
その代わりにあるのは、
判断だけだ。
円卓ではない。
象徴的な配置は避けられている。
長方形の机。
資料。
数字。
映像。
そこに、
地球側の代表と、異世界連合の仲介官が並んでいた。
「議題を確認する」
地球側の代表が言う。
「条件付き回復能力の使用可否」
「および、
回復対象の損傷を引き受ける器の選定」
一拍。
「当該人物が、自ら志願している件」
空気が、
僅かに張りつめる。
異世界連合の仲介官は、
人型だが、明らかに人間ではなかった。
声に、感情の揺れがない。
「確認します」
「地球側は、
自発的同意があれば許可可能という立場ですね」
「法的には、そうなる」
地球側が答える。
「スキル使用は個人の自由」
「制約の追加も、
強制ではない」
「ですが」
別の席から、
声が上がる。
「戦局への影響が大きすぎる」
スクリーンが切り替わる。
被害予測。
生存率。
回復成功率。
すべてが、
数字で並ぶ。
「対象が前線に立たず、
損傷を引き受ける場合」
「回復成功率は、
現行の3.4倍」
「前線維持時間は、
約1.8倍に延長」
数字は、
雄弁だった。
「代償は?」
誰かが問う。
別の資料が出る。
「器となる人物の生存率」
一瞬、
沈黙。
「……32%」
低い数字だった。
即死ではない。
だが、
長くは持たない。
「それでも」
地球側の代表が、
淡々と続ける。
「全体の生存率は上がる」
その言葉で、
何人かが目を伏せた。
異世界連合の仲介官が、
一つ確認を入れる。
「感情的異議は?」
返事はない。
「友情」
「仲間意識」
「情」
それらは、
この部屋には持ち込まれていない。
「合理性のみで判断します」
仲介官が言う。
「この選択は、
秩序に反しません」
「自発的であり、
強制性がなく」
「全体最適を、
著しく改善する」
「ただし」
一拍。
「条件を付けます」
全員が、
顔を上げる。
「この犠牲は、
一度きりです」
「連続使用は、
許可しません」
「器の死亡が確認された場合、
同様の手法は即時禁止」
「例外は?」
地球側が聞く。
仲介官は、
静かに答えた。
「ありません」
それは、
救済でもあり、
歯止めでもあった。
「確認」
仲介官が、
最後に言う。
「当該人物は、
自らの選択によって」
「生存確率を下げ、
他者の回復を成立させる」
「この行為を、
英雄行為として扱いません」
「功績は記録されるが、
称賛はしない」
「同意しますか?」
沈黙。
地球側代表が、
ゆっくりと頷いた。
「同意する」
決定は、
それで終わった。
会議は、
解散した。
誰も、
拍手はしない。
その数分後。
指揮所に、
簡潔な通知が届く。
【通達】
条件付き回復能力の使用を、限定的に許可する。
器の選定は、本人の明示的同意を条件とする。
本件は、戦時特例とする。
俺は、
その通知を見ていた。
静かに。
幼馴染が、
横に立つ。
何も言わない。
「……許可、出たな」
俺が言う。
「出たな」
短い返事。
それだけだ。
この瞬間、
俺は理解した。
これは、
止められなかったんじゃない。
止めなかったんだ。
世界が、
選んだ。
俺は、
選ばれた。
それだけの話だ。




