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第三部・第30話 炎は、届いているのに

投入の決定は、

迅速だった。


議論は短く、

結論は単純。


「雪花が止まっている」


「理由は不明」


「だが、

 このまま何もしないのは

 リスクが高い」


「なら、

 分かりやすい圧を一つ入れる」


その役目に、

炎帝は最適だった。


火力。

持続。

制圧。


過去の戦場では、

常に“意味のある投入”だった。


「炎帝、投入」


通信は、

一文だけ。


最初の被害は、

確かに出た。


炎が、

街の縁をなぞる。


熱。

煙。

避難誘導。


現場は、

慌ただしくなる。


「……効いてる」


誰かが、

安堵の声を漏らす。


「少なくとも、

 戦争らしくなった」


だが。


次の報告が、

奇妙だった。


「炎帝、

 前進していません」


「被害は?」


「限定的です」


「……抑えている?」


「いいえ」


「進んでいないだけです」


画面に映る炎は、

派手だ。


だが、

広がらない。


「……燃やせるのに、

 燃やしてない?」


「そんな馬鹿な」


「炎帝は、

 感情で手を抜くタイプじゃない」


さらに、

別の情報が入る。


「雪花、

 反応なし」


「……?」


「炎帝投入後も、

 配置を変えていません」


「攻撃準備も?」


「していません」


沈黙。


「炎帝は、

 雪花への牽制のはずだ」


「なのに、

 見られていない?」


「いや」


誰かが、

小さく言う。


「見ているが、

 関係ないと

 判断されている」


管理側は、

初めて気づく。


炎帝は、

“弱い”わけではない。


意味を持たなくなり始めている。


「炎帝の投入理由は?」


「圧をかけるため」


「何に?」


「……前線に」


その言葉が、

空回りする。


「前線が、

 前じゃない」


誰かが、

静かに言った。


炎は、

確かに燃えている。


人は、

避難している。


被害は、

出ている。


——それでも。


「雪花の判断に、

 何の影響も与えていない」


その事実が、

重く落ちる。


その頃。


雪花は、

炎を見ていない。


煙も、

熱も、

見ていない。


彼女の視線は、

変わらない。


前線でも、

炎帝でもない。


(……違う)


心の中で、

そう思う。


(それは、

 今じゃない)


炎帝は、

正しい。


投入も、

合理的。


だが、

今の戦場には

 合っていない。


管理側のログに、

短い注記が加えられる。


・炎帝投入

・被害あり

・戦況変化なし


「……切り札って」


誰かが、

ぽつりと呟く。


「いつから、

 前提ありきに

 なったんだろうな」


炎は、

燃え続けている。


だが、

戦況は動かない。


届いているのに、

 届いていない。


その感覚だけが、

現場に残っていた。

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