第三部・第24話 配置が、違う
最初に気づいたのは、
前線ではなかった。
「……あれ?」
監視室のオペレーターが、
思わず声を出す。
「雪花の反応、
そこじゃないですよね?」
画面に映るのは、
雪原でも、
都市上空でもない。
何もない地点。
「確認」
管理官が、
短く指示を出す。
センサーを拡大。
座標再取得。
誤差補正。
結果は、
変わらない。
「……後方だな」
「え?」
「戦線の“後ろ”です」
一瞬、
沈黙。
これまでの雪花は、
常に前にいた。
破壊効率最大
視認性最優先
威圧を兼ねた配置
その全てが、
前線配置を前提に組まれていた。
なのに今回は。
「接敵距離、
伸びてます」
「高度、
下げてます」
「……遮蔽物を
選んでる?」
ざわつきが、
広がる。
「戦術変更?」
「命令は?」
「……出ていません」
「じゃあ、
自己判断?」
誰も、
即答できない。
「攻撃準備は?」
「……してません」
「防御?」
「最低限」
「移動意図は?」
「……読めません」
管理官が、
ゆっくりと息を吐く。
「前回と、
同じ敵じゃないな」
その言葉に、
全員が頷いた。
理由は、
分からない。
だが、
確実に。
「威圧が、
薄れてる」
「……いや」
別の分析官が、
首を振る。
「薄れたんじゃない」
「向きが変わった」
画面の中で、
雪花は静止している。
動かない。
攻撃しない。
だが、
逃げてもいない。
「……狙ってる?」
「何を?」
「“前”じゃないものを」
その言葉に、
誰も反論できなかった。
地球側の対応は、
慎重になる。
・迎撃態勢は維持
・不用意な前進はしない
・雪花を“通常侵攻”として扱わない
理由欄は、
空白。
「……違和感の正体、
分かりますか?」
若い担当が、
恐る恐る聞く。
管理官は、
画面から目を離さず答えた。
「分からない」
「だがな」
一拍置く。
「分からないまま
動いている相手は、
今までで一番厄介だ」
その頃。
雪花は、
低い建造物の影に立っていた。
視線は、
前ではない。
背後。
そして、
少し下。
「……ここからなら」
独り言。
何を、
どうするか。
まだ、
決めていない。
ただ、
一つだけ。
「前みたいには、
しない」
それだけが、
確定していた。
地球側のログに、
短い追記が残る。
・雪花、
配置意図不明
・攻撃準備なし
・だが、
“様子見”ではない可能性あり
警報は、
鳴らない。
爆発も、
起きない。
だが、
誰も気を抜かない。
静かな変更ほど、
危険なものはないと、
全員が理解していたからだ。




